最近の研究成果

遺伝暗号の隠れた役割を発見
~コドンが受精卵のmRNA 安定性を決定する~

三嶋 雄一郎、泊 幸秀(RNA機能 研究分野)
Molecular Cell(米国東部時間 3月17日、日本時間3月18日)

発表概要

動物の受精卵における遺伝子発現は、タンパク質合成の鋳型となるmRNA の安定性に大きく左右されます。動物の受精卵には母親に由来するmRNA(以下、母性mRNA)が蓄えられており、これを鋳型として合成されるさまざまなタンパク質が、受精直後の生命現象を支えて
います。しかし受精後一定の時間が経つと、一部の母性mRNA は速やかに分解され、胚自身の新しいmRNA に置き換わります。動物発生の「母親離れ」とも言うべきこの時期で、どのような規則に基づいて母性mRNA が分解されるのかは、これまであまり分かっていませんで
した。
今回、東京大学分子細胞生物学研究所の三嶋雄一郎助教と泊幸秀教授らの研究グループは、ゼブラフィッシュという小型熱帯魚の受精卵を用いて、母性mRNA の安定性を決定する要因を解析しました。安定な母性mRNA と不安定な母性mRNA を網羅的に区別し、さらに情報解析によってそれらの持つ特徴を詳細に比較しました。その結果、両者では遺伝暗号であるコドン(注1)の組成に偏りがあることを見出しました。
本成果は、タンパク質のアミノ酸配列を指定する遺伝暗号であるコドンに、mRNA の安定性を規定する隠れた役割があることを示したものです。この発見は、これまでの遺伝暗号の古典的概念を覆し、隠されていたmRNA の安定性情報を読み取ることを可能にする画期的なものです。今後はこの発見をもとに、動物の胚発生(注2)における遺伝子発現の理解がさらに深まることが期待されます。

雑誌名等

雑誌名: Molecular Cell
論文タイトル: Codon usage and 3′ UTR length determine maternal mRNA stability in zebrafish
著者: Yuichiro Mishima*, Yukihide Tomari
DOI番号: 10.1016/j.molcel.2016.02.027

問い合わせ先

東京大学 分子細胞生物学研究所 RNA 機能研究分野
助教 三嶋 雄一郎