研究分野の概略

DNAオリガミとDNA回路・スイッチを使用して、100ナノメートルオーダーでの細胞表面におけるタンパク質微小環境の生物学的重要性を解明します。ナノスケールから組織レベルまでの空間生物学のためのシーケンスベースの読み出し法や、デジタルDNAデータストレージ技術の開発も行います。

研究内容の紹介

分子精度DNAデバイスを用いてナノスケールで細胞相互作用を解読する

自分が作れないものは、理解したとは言えない。これはアメリカの物理学者リチャード・ファインマンの有名な言葉ですが、私たちの研究室において生物学的問題を解決するためにどのようなアプローチをとっているかをよく言い表しています。ナノスケールで生物学を理解するためには、同じスケールで生物学を扱う必要があると考えています。つまり、分子デザインです。私たちはDNAオリガミを使って、タンパク質、ペプチド、小分子の集合体をナノスケールのパターンで分子精度で作製します。このアプローチによって、従来の手法では不可能であろう方法で、細胞膜上で細胞同士がどのようにタンパク質のパターンによって情報を伝え合っているのかがわかるようになります。このような細胞膜パターンによって誘発されるシグナル伝達に関する知識を得ることで、例えば、腫瘍の中でのみアポトーシスを引き起こすナノロボティックデバイスを設計することができるようになりました。

さらに私たちは、ナノスケールからより大きなスケールまでの空間生物学に関する新しい技術の開発や、DNAを通じてどのように情報が保存・伝達されるのかにも関心を持っています。分子反応ネットワークにDNAを使用することで、隣接相互作用を保存したり読み出したりすることを目指しています。これによりシーケンシングデータのみから、顕微鏡を使わず、生物学的・空間的情報を一度に得ることができます。DNAに情報を保存する能力は、もちろんデータの長期保存にも活用でき、またデジタルDNAデータストレージを使用して生物学の実験で空間情報を保存することにも同様に活用可能なため、相乗効果があります。

まとめると、私たちの研究室では、分子シグナリングに関する根本的な問題への答えを導くために私たちだけでなく他者にも有用な技術や方法を、分子デザインおよび分子プログラミングを用いて開発します。

私たちはDNAオリガミを開発および利用します(左上)。DNAナノ構造を足がかりとして活用し、ナノスケールの分子パターンを作製します(左下)。そしてこのような構造を用いて細胞シグナリングを調査します。例では(右上)、19ナノメートル間隔のペプチドのパターンはシグナリングが見られませんが、6ナノメートルの間隔の同じペプチドに細胞をさらすと(右下)、アポトーシスを引き起こします。左:Benson、Högbergほか、Nature (2015)より。右:Wang、Högbergほか、ACS Nano (2021)より。

論文一覧

  1. Wang Y, Baars I, Berzina I, Rocamonde-Lago I, Shen B, Yang Y, Lolaico M, Waldvogel J, Smyrlaki I, Zhu K, Harris RA and Högberg B, A DNA Robotic Switch with Regulated Autonomous Display of Cytotoxic Ligand Nanopatterns, Nature Nanotechnology 19, 1366 (2024)

  2. Yang Y, Rocamonde-Lago I, Shen B, Berzina I, Zipf J and Högberg B, Re-engineered guide RNA enables DNA loops and contacts modulating repression in E. coli, Nucleic Acids Research 52, 9328 (2024)

  3. Kloosterman A, Baars I and Högberg B, An error correction strategy for image reconstruction by DNA sequencing microscopy. Nature Computational Science 4, 119 (2024)

  4. Smyrlaki I, Fördős F, Rocamonde-Lago I, Wang Y, Shen B, Lentini A, Luca VC, Reinius B, Teixeira AI and Högberg B, Soluble and multivalent Jag1 DNA origami nanopatterns activate Notch without pulling force, Nature Communications 15, 465 (2024)

  5. Wang Y, Benson E, Fördős F, Lolaico M, Baars I, Fang T, Teixeira A & Högberg B, DNA Origami Penetration in Cell Spheroid Tissue Models is Enhanced by Wireframe Design, Advanced Materials 33, p. 2008457 (2021)

  6. Hoffecker I, Yang Y, Bernardinelli G, Orponen P and Högberg B, A computational framework for DNA sequencing microscopy, Proc. Nat. Acad. Sci. 116, p. 19282–7 (2019)

  7. Shaw A, Hoffecker IT, Smyrlaki I, Rosa J, Grevys A, Bratlie D, Sandlie I, Michaelsen TE, Andersen JT & Högberg B, Binding to Nanopatterned Antigens is Dominated by the Spatial Tolerance of Antibodies, Nature Nanotechnology, 14 p. 184 (2019)

  8. Benson E, Mohammed A, Gardell J, Masich S, Czeizler E, Orponen P and Högberg B, DNA rendering of polyhedral meshes at the nanoscale, Nature 523 p. 441 (2015)

  9. Shaw A, Lundin V, Petrova E, Fördős F, Benson E, Al-Amin A, Herland A, Blokzijl A, Högberg B* and Teixeira A* (*equal), Spatial control of membrane receptor function using ligand nanocalipers, Nature Methods, 11 p. 841 (2014)

  10. Ducani C, Kaul C, Moche M, Shih WM and Högberg B, Enzymatic production of 'monoclonal stoichiometric' single-stranded DNA oligonucleotides, Nature Methods, 10, p. 647 (2013)

ビョルン ヘーグベリ 客員教授
Björn Högberg
Ph.D.