研究分野の概略
最先端の画像処理技術による最近の発見から、細胞内における生体分子の動態が明らかになってきています。当研究室では、その動態がどのように変化することで、酵素活性の調節やがん化シグナルの増強を引き起こしうるのかについて研究しています。最終的には、発がんにつながるこれらの変化に対抗する治療薬を開発することを目標としています。
研究内容の紹介
がん細胞におけるタンパク質拡散性の基礎となる分子文法を理解する
転写因子のDNA結合非依存的機能
発がん性の転写因子はDNA結合により遺伝子発現を刺激することが知られていますが、DNA結合非依存的機構により転写を増強することを示唆するエビデンスもあります。転写因子のこうした特徴は未だ研究途上でありますが、タンパク質の分子文法(すなわち、タンパク質のアミノ酸組成により決まる生物物理学的特性)が、タンパク質の局在化、凝縮、拡散性、そして酵素活性にどのように影響するかを示す新しい知見が得られ始めています。私たちは生化学的解析と次世代塩基配列決定アプローチを用いてこの第2の調節機構を研究し、がんタンパク質を治療標的化する新しい手法を示したいと思っています。
がん細胞におけるタンパク質動態を制御する
最先端技術によって、生体分子の動態は細胞内の場所ごとに非常に異なっており、多様な生物物理学的特性がその違いに影響していることが分かってきています。例えば、DNA鎖上に形成される転写因子’凝集体’においては、タンパク質の動きが構造体内部に制限されるという現象が見られます。私たちは、タンパク質が核内の溶質に影響し、細胞機能や酵素活性を全体的に活性化ないし不活性化するような作用を及ぼしうるのでないかという仮説を立てました。そして、細胞内でどのようにしてタンパク質拡散性が制御されるのかを理解するための革新的な方法を開発し、最終的にはタンパク質動態を標的とするハイスループット化合物スクリーニング技術を開発することを目指しています。
協調性と多様性を備えた研究チームの編成
さまざまな学問分野の研究者が共に働くことができる包括的な環境を作り、それぞれが独自の考えを持ち寄ることで複雑な問題に取り組むことを私たちは目指しています。こうした協調的アプローチによって、多岐にわたる科学的問題に取り組み発見を成し遂げることができると考えています。
論文一覧
- CX-5461 Preferentially Induces Top2α-Dependent DNA Breaks at Ribosomal DNA Loci.
Cameron DP*, Sornkom J*, Alsahafi S, Drygin D, Poortinga G, McArthur GA, Hein N, Hannan RD, Panov KI.
Biomedicines. 12, 1514 (2024).
- Coinhibition of topoisomerase 1 and BRD4-mediated pause release selectively kills pancreatic cancer via readthrough transcription.
Cameron DP*, Grosser J*, Ladigan S*, Kuzin V, Iliopoulou E, Wiegard A, …, Hahn SA, Baranello L.
Science Advances. 9, eadg5109 (2023).
- MYC assembles and stimulates topoisomerases 1 and 2 in a “topoisome”.
Das SK*, Kuzin V*, Cameron DP, Sanford S, Jha RK, Nie Z, Rosello MT, …, Levens D, Baranello L.
Molecular Cell. 82, 140-158.e12 (2022).
- Topoisomerase 1 activity during mitotic transcription favors the transition from mitosis to G1.
Wiegard A*, Kuzin V*, Cameron DP*, Grosser J, Ceribelli, Michele, …, Baranello L.
Molecular Cell. 81, 5007-5024.e9 (2021).
- Analysis of Myc Chromatin Binding by Calibrated ChIP-Seq Approach.
Cameron DP*, Kuzin V*, Baranello L.
Methods in Molecular Biology. 2318, 161-185 (2021).
- Deficiency of Polη in Saccharomyces cerevisiae reveals the impact of transcription on damage-induced cohesion.
Wu PS, Grosser J*, Cameron DP*, Baranello L, Ström L.
PLOS Genetics. 17, e1009763 (2021).
- First-in-Human RNA Polymerase I Transcription Inhibitor CX-5461 in Patients with Advanced Hematological Cancers: Results of a Phase I Dose Escalation Study.
Khot A*, Brajanovski N*, Cameron DP, Hein N, Maclachlan KH, Sanij E, ..., Harrison SJ.
Cancer Discovery. 9, 1036-1049 (2019).
- Inhibition of Pol I transcription treats murine and human AML by targeting the leukemia-initiating cell population.
Hein N, Cameron DP, Hannan KM, Nguyen NN, Fong CY, Sornkom J, …, Hannan RD
Blood. 129, 2882-2895 (2017).
- Selective inhibition of RNA polymerase I transcription as a potential approach to treat African trypanosomiasis
Kerry LE, Pegg EE, Cameron DP, Budzak J, Poortinga G, Hannan K, Hannan RD, Rudenko G.
PLOS Neglected Tropical Diseases. 11, e0005432 (2017).
ドナルド キャメロン 准教授
Donald Cameron