所長挨拶

定量研発足5年、研究所開所70年に寄せて

 時間が経つのは早いもので、定量研が発足して5年という歳月が流れました。発足以来、研究組織の透明化、国際化、基礎研究重視、若手支援、を4つの柱として研究所を運営してきました。また、この間も、開所の際の挨拶で述べたとおり、シドニーブレンナー博士の“Progress in science depends on new techniques, new discoveries and new ideas, probably in that order.”ということばを研究所の座右の銘として、特に新しい技術導入に貪欲に研究所一丸となって取り組んできました。幸い、教職員のたゆまぬ努力、さらには毎年開催されている外部評価のおかげもあり、「優れた研究の場」という研究所にとって一番重要なアイデンティティーを確立することができたスタートの5年間であったと思います。

 一方、この5年間は我々の生活が予測不可能な試練にさらされ続けた5年間でもありました。パンデミックそのものも大変な体験でしたが、パンデミックが引き金となり、ロシアのウクライナ侵攻が拍車をかけたインフレ。さらにはパンデミックによって我々が再認識することとなった日本の科学界の発信力低下や経済の脆弱性など負の連鎖は上げていけばきりがありません。そういう時代の中でも研究所のパフォーマンスを落とさず、しっかりとした運営を続けることができたのは教職員一人ひとりが自身の責任の重さを自覚して常に挑戦の精神を忘れなかった賜であると言えます。

 聞けば今年は定量研の前身の応用微生物学研究所が開所してから70年に当たる年だそうです。長い研究所の歴史の中で定量研となった5年という期間は決して長くはありませんが、研究所に所属しているすべての教職員それぞれが、また、未来の教職員も、充実した人生を送ることができる職場として、今後も定量研は輝きを失わず、今まで以上に研究所としての高みを目指していかねばなりません。またそのために今まで通り、あと一年の任期となりましたが、私自身、体を張って、批判を恐れず、努力を惜しまず行動する所存です。

定量生命科学研究所長  ⽩髭 克彦


定量生命科学研究所長

白髭 克彦(しらひげ かつひこ)

1988年東京大学教養学部基礎科学科卒、1994年大阪大学大学院医科学研究科博士課程修了(医科学)。以降、奈良先端科学技術大学院大学、理研、東工大を経て2010年より東京大学分子細胞生物学研究所教授。2017年同研究所所長。2018年改組により定量生命科学研究所所長。(専門:ゲノム科学)


対談・インタビュー

白髭所長×池上客員教授対談

多様性に富んだ研究所が目指すもの

誰も耕さない荒れ地に花は咲かない

ゲノムから脳まで、幅広く生命に関わる研究分野を包含する研究所のこれまでと今、そしてこれからについて、初代所長である白髭克彦教授に、ジャーナリストで当研究所では科学技術と倫理を担当する池上彰客員教授が聞いた。