最近の研究成果

分子進化の新しい解析法の発見により、数十億年前から現在に至る遺伝子制御システムの進化を明らかにした

堀越 正美(発生分化構造 研究分野)
Scientific Reports(6 月16 日)

発表概要

分子レベルで生命現象を捉える研究が進み、進化学でも遺伝子DNA や蛋白質の解析に基づく分子進化学という研究分野がポーリングらにより約55 年前に生まれた。DNA が化石として残ることは殆どないため、化石から得られる情報を基に太古の分子進化を探ることは不可能である。したがって、分子進化と言っても、太古に存在した生物の遺伝子(祖先遺伝子)から現存生物の遺伝子(現存遺伝子)までの進化的距離を実際に計算することはできず、現存生物の遺伝子を主に解析している。また、現存遺伝子を用いて、1 つの遺伝子グループの進化をたどろうとしても、その一部を外部標準として除外する必要があり、グループ全体の進化系統を一度に知ることはほぼ不可能だった。
今回、 東京大学の堀越正美准教授、 高エネルギー加速器研究機構の安達成彦特別助教及び千田俊哉教授らの研究グループは、遺伝子内に含まれる繰り返し配列に着目し、外部標準を必要とせず、祖先遺伝子と現存遺伝子の間の進化的距離を算出できる新しい解析法を考案した。この解析法により、解析が不可能とされていた約30 億年前に起こった生物システムの進化の一端を、遺伝情報を取り出す「転写システム」に着目して、明らかにした。今後、細胞の増殖・分化を支えるさまざまな生命システムがどのように進化してきたかをより幅広く詳細に解析するだけでなく、精巧な生物システムの進化の仕組みの変遷から、人工知能や精密機械の「進化」においても応用可能な情報が得られることが期待される。

雑誌名等

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: Uncovering ancient transcription systems with a novel evolutionary indicator
著者: Naruhiko Adachi, Toshiya Senda*, Masami Horikoshi*
DOI番号: 10.1038/srep27922

問い合わせ先

東京大学 分子細胞生物学研究所 発生分化構造 研究分野
准教授 堀越 正美