最近の研究成果

初めて解像された膜蛋白質と燐脂質の相互作用のダイナミクス

乗松 良行、長谷川 和也、清水 伸隆、豊島 近(膜蛋白質解析)
Nature 5月11日号(オンライン版5月3日)
(イギリス時間5月3日(水)午後6時 日本時間5月4日(木)午前2時)

発表概要

今回、東京大学の研究グループは、高輝度光科学研究センターの研究グループと共同で大型放射光施設SPring-8(注3)を用い、4つの異なる状態におけるカルシウムポンプ蛋白質結晶中の脂質二重膜を可視化した(図2, 3)。

X線結晶解析技術・設備の進歩によって、構造解析が困難なことで有名な膜蛋白質の構造決定も数多く行われるようになり、豊島教授グループによる一連の研究によって、膜蛋白質は大規模な構造変化を起こすことも明らかになった。しかし、構造変化や機能発現に直接影響を与えるはずの生体膜(脂質二重膜; 図1)との相互作用の解析は、生体膜を構成する個々の燐脂質を解像できるレベルで生体膜を可視化する技術が存在しなかったために、不可能であった。

豊島教授らはX線溶媒コントラスト変調法という手法を開発し大型放射光施設SPring-8 BL41XUで実験を行った。開発した技術を、医学的・生物学的に極めて重要な膜蛋白質であるカルシウムポンプの4つの状態の結晶に適用した。これまでは、蛋白質1分子あたり40個以上あるはずの燐脂質を1, 2個しか解像できなかったが、今回の研究によってカルシウムポンプ蛋白質を取り囲む燐脂質をすべて解像することに成功した(図3)。その結果、膜蛋白質には「錨」として燐脂質と連動して動くアミノ酸と膜に浮かぶための「浮き」の役割を果たすアミノ酸が精妙に配置されており、両者の間で緊密な連携があることが見出された。

今後の創薬の標的の大部分を占める膜蛋白質と生体膜との相互作用の基礎的な原理が実験的に示されたことにより、他の膜蛋白質の構造や機能発現の理解に大きな進歩が期待される。

雑誌名等

雑誌名:Nature 5月11日号(オンライン版5月3日)
論文タイトル:Protein-phospholipid interplay revealed with crystals of a calcium pump
「カルシウムポンプの結晶で明らかにされた蛋白質と燐脂質の協働」
著者:Yoshiyuki Norimatsu, Kazuya Hasegawa, Nobutaka Shimizu & Chikashi Toyoshima*
DOI番号:DOI 10.1038/nature22357

問い合わせ先

東京大学分子細胞生物学研究所附属高難度蛋白質立体構造解析センター
センター長/教授 豊島 近(とよしま ちかし)