最近の研究成果

小顎症・低身長と発達遅滞が特徴の新たな希少遺伝病を発見
細胞内タンパク輸送異常による骨・神経発達への影響を解明

泉 幸佑、白髭 克彦(ゲノム情報解析研究分野)
American Journal of Human Genetics(米国東部夏時間 7月28日、日本時間7月29日)

発表概要

次世代シークエンサーの普及によって種々の疾患の原因遺伝子の同定が簡便に行えるようになりました。特に希少疾患の原因遺伝子は、生物学的に基本的かつ重要なプロセスに関わるものが多く、その研究が思いがけない発見に結びつくことがあります。
東京大学分子細胞生物学研究所の泉幸佑助教(研究当時、現米国フィラデルフィア小児病院)、同分子細胞生物学研究所附属エピゲノム疾患研究センターの白髭克彦教授らの研究グループは、長野県立こども病院の西恵理子遺伝科部長、シンガポールKK Women’s and Children’s HospitalのMaggie Brett研究員、フランスINSERMの Vincent El Ghouzzi博士らとの共同研究により小さな顎を含む特徴的な顔つき、発達の遅れと低身長を特徴とする新たな遺伝病を発見しました。そして、この病気がARCN1遺伝子の変異により発症することを明らかにしました。

ARCN1遺伝子が作り出すタンパク質は細胞内での分子輸送にかかわっています。ARCN1遺伝子変異により、細胞内での分子輸送が円滑に行われなくなり、コラーゲンといった骨形成に重要なタンパク質が細胞内に蓄積してしまい、その結果として低身長を含む全身性の症状につながることが明らかとなりました。

今回の一連の研究によりARCN1遺伝子を介した細胞内輸送の骨・神経発達への重要性、そしてその病態分子機構の一端が明らかになりました。この成果は、ARCN1遺伝子を標的とする骨・神経系異常を治療する薬の開発につながる可能性があります。

雑誌名等

雑誌名: American Journal of Human Genetics(オンライン版7月28日)
論文タイトル: ARCN1 Mutations Cause a Recognizable Craniofacial Syndrome Due to COPI-mediated Transport Defects
著者: Kosuke Izumi, Maggie Brett, Eriko Nishi, Séverine Drunat, Ee-Shien Tan, Katsunori Fujiki, Sophie Lebon, Breana Cham, Koji Masuda, Michiko Arakawa, Adeline Jacquinet, Yusuke Yamazumi, Shu-Ting Chen, Alain Verloes, Yuki Okada, Yuki Katou, Tomohiko Nakamura, Tetsu Akiyama, Pierre Gressens, Roger Foo, Sandrine Passemard, Ene-Choo Tan, Vincent El Ghouzzi, Katsuhiko Shirahige
DOI番号: 10.1016/j.ajhg.2016.06.011

問い合わせ先

フィラデルフィア小児病院 遺伝科
泉幸佑 (いずみ こうすけ)

東京大学 分子細胞生物学研究所附属エピゲノム疾患研究センター
教授 白髭克彦(しらひげ かつひこ)