最近の研究成果

ジェネラリストが駆動する微生物の分散と進化

岩崎 渉(教授)

発表概要

自然界には、さまざまな環境に対応できる「ジェネラリスト」戦略をとる生物がいるいっぽうで、特定の環境に特化した「スペシャリスト」戦略をとる生物もいます。ところが、個々の生物や生態系を対象とした研究はあっても、「どちらの戦略が有利なのか?」「なぜ2つの戦略をとる生物が共存するのか?」といった根本的な疑問に対する俯瞰的・実証的な解析はこれまで行われてきませんでした。本研究では、さまざまな環境にわたる微生物群集データを収集・整理した上で、2つの状態の間を確率的に行き来しながら生物が進化する「2状態種分化絶滅モデル(BiSSEモデル)」とよばれる数理モデルを用いた進化解析を行った結果、ジェネラリストの方が絶滅率に対して高い種分化率を持ち、生物進化の過程で子孫を繁栄させる上で有利であることが明らかになりました。この結果は「進化がジェネラリストによって駆動されている」ことを示唆しています。では、それならばなぜ、生物はジェネラリストばかりにならないのでしょうか?今回の研究結果からは、ジェネラリストが進化の過程でスペシャリストに変わる速さの方が、逆の速さよりも大きいことも明らかになりました。つまり、ジェネラリストは有利ではあるけれども、「ジェネラリストであり続けることが難しい」のです。それぞれの環境における厳しい生存競争に勝つために、ジェネラリストはスペシャリストにならざるを得ないのかもしれません。

雑誌名等

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Generalist species drive microbial dispersion and evolution.
著者:Sira Sriswasdi, Ching-chia Yang, and Wataru Iwasaki.

問い合わせ先

岩崎 渉(イワサキ ワタル)
東京大学 定量生命科学研究所 教授(兼務)