発表概要
心臓は胚発生の最も初期から機能し、拍動することによって血液を循環させるという、まさに生命そのものと言える重要な器官です。そのため、生息する環境に適応する過程で生物は心臓の形態も進化させています。脊椎動物において最も繁栄を遂げた種である真骨魚類では、心臓の一部である心臓流出路と呼ばれる部位を心筋から平滑筋へと変化させることによって、血液循環を洗練させ、水中環境に適応するように進化していることが知られています。この真骨魚類に見られる流出路は“動脈球”と呼ばれ、真骨魚類の進化において獲得された非常に重要な器官であると考えられています。しかし、真骨魚類がどのようにして心臓流出路を心筋から平滑筋へと変化させ、動脈球を獲得したかは長い間不明でした。今回、東京大学分子細胞生物学研究所の守山裕大博士と小柴和子講師らの研究グループは、elastin b という細胞外マトリックス(注1)をコードする遺伝子が真骨魚類の進化の過程で獲得され、心臓流出路の細胞を心筋から平滑筋へと変化させ、動脈球を形成することを明らかにしました。この結果は、細胞外の環境変化によって新たな器官が進化したという、これまでには知られていなかった世界初の例です。
本研究で明らかにされたことは、“生物はどのように進化の過程で新しい器官を獲得したか”という生物学の根源的な問いに新たな理解を附するものであると同時に、細胞運命をいかに人為的に変化させるかという医療応用面においても新たな知見を与える重要な成果です。
雑誌名等
雑誌名: Nature Communications(2016 年1 月19 日 午後7 時(日本時間)に公開)
論文タイトル: Evolution of the fish heart by sub/neofunctionalization of an elastin gene
著者: Yuuta Moriyama*, Fumihiro Ito, Hiroyuki Takeda, Tohru Yano, Masataka Okabe, Shigehiro Kuraku, Fred W. Keeley & Kazuko Koshiba-Takeuchi*
守山裕大*、伊藤史博、武田洋幸、矢野十織、岡部正隆、工樂樹洋、Fred W. Keeley、小柴和子*
*Corresponding author(責任著者)
DOI番号:10.1038/ncomms10397
問い合わせ先
東京大学 分子細胞生物学研究所 心循環器再生研究分野
日本学術振興会特別研究員PD 守山裕大
講師 小柴和子