最近の研究成果

視力の低い人への視認性と景観との調和の両立をめざし、車椅子やベビーカー利用者のバリアになりにくい、視覚障害者用点字誘導ブロックの開発

伊藤 啓(東京大学分子細胞生物学研究所 脳神経回路研究分野 准教授)
隈 研吾(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 教授)

発表概要

東京大学分子細胞生物学研究所の伊藤啓准教授らのグループは、視力が低い人(ロービジョン者、弱視者)にとって視認しやすく、しかも景観と調和しやすいような視覚障害者誘導用ブロックを開発し、屋外での誘導ブロック敷設に用いられるほとんどの施工法に対応した製品を、来春より各社から発売します。

誘導ブロックは、目が見えない人だけでなく視力の低い人にとっても、安全な歩行経路を「色のついた明確な帯状のライン」として分かりやすく示すための記号(視覚ガイド)として機能しています。その色は「黄色が望ましい」とされていますが、景観を重視する建築家やデザイナーは非常に鮮やかで目立つ色である黄色を避けようとする傾向があります。そのため、路面の色や舗装の模様と紛らわしく、視力の低い人に見分けにくいような色の誘導ブロックが設置されるケースが増えています。

そこで、カラーコンサルティング会社と誘導ブロックメーカー各社の協力と、本学教授で著名な建築家でもある隈研吾の助言を得ながら、黄色の鮮やかさや明るさ、色みを変えたさまざまな色あいの誘導ブロックを試作し、視力の低い人のべ約100名と一般視覚者のべ約50名の協力で何段階もの比較評価実験を行い、視認しやすく景観とも調和しやすい色を絞り込みました。この種の研究では新品の製品サンプルを地面に置いて比較するだけの場合が少なくありませんが、今回の研究では数回にわたって、候補デザインの誘導ブロックを路面に敷設して長期の実証実験を行い、退色や汚損が進んだ状態での見やすさを評価しました。

最終的に選ばれた2つの色の誘導ブロックは、景観と調和しにくいために設置を避けられがちな濃い黄色のブロックとほぼ同等の視認性を示し、特に光が少ない夕暮れ時には同等以上の視認性を示しました。

車椅子やベビーカーの利用者、キャリーバッグを引っ張る旅行者や、荷物を運ぶ台車を押す人には、誘導ブロックの突起の段差がバリアになることがあります。また一般の歩行者も、突起の角が靴に引っかかり、つまずくことがあります。そこで、突起の角に少し丸みをつけたブロックや、車椅子やベビーカーの車輪が通り抜けられるような適切な幅の平坦部を設けたブロックも試作しました。これらについても比較評価を行ったところ、視力の低い人や全盲の人にはほとんど悪影響を与えずに、車椅子やベビーカーの利用者からも高い評価が得られました。

このように工夫された新しい誘導ブロックが社会に普及するためには、それらの入手が容易である必要があります。誘導ブロックにはさまざまな材料や製法があり、路面の状況や施工条件などによって使い分けられています。そうした状況に幅広く対応するため、屋外で用いられるほとんどの施工法に対応できる合計5種類の製法のブロックの、4社での製品化にいたりました。(製法の技術的都合により、突起に丸みや平坦部を設けたブロックは、当面は一部メーカーからの発売となります。)

オリンピック・パラリンピックを控え、ユニバーサルデザインの普及が求められている中で、視力の低い人と建築家やデザイナーの両方のニーズを満たすことができる今回の開発は、バリアフリーと景観両立の大きな一助になると期待しています。

雑誌名等

【参加者の主な役割】
伊藤 啓(東京大学)  研究の計画、評価
隈 研吾(東京大学)  建築家としての助言
株式会社 LIXIL             セラミック・タイル製品のサンプル作成・製品化、実証試験場所の提供
日本興業株式会社          コンクリート製品のサンプル作成・製品化
株式会社キクテック      エポキシ樹脂製品のサンプル作成・製品化
大光ルート産業株式会社            アクリル樹脂系シートタイプ製品の製品化
DICカラーデザイン株式会社    色の選定に関する助言、評価
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構       色覚に関する助言、比較評価実験の運営

※ロービジョン者、全盲者、車椅子利用者、ベビーカー利用者の調査協力者募集にあたり、当事者団体である社会福祉法人日本盲人会連合、NPO法人タートル、NPO法人 DPI日本会議、NPO法人アクセシブルラボ、コワーキングスペースみらいハウスのご協力を得ました。感謝いたします。
また東京大学キャンパス内での実証試験の実施にあたっては、東京大学バリアフリー支援室、施設部環境課の協力を得ました。
本研究は、日本学術振興会挑戦的萌芽研究「ロービジョンと色弱の色認識特性に基づくカラーユニバーサルデザイン原理の研究」の支援を得て行われました。

問い合わせ先

問い合わせ先:
東京大学分子細胞生物学研究所 脳神経回路研究分野
准教授 伊藤 啓(いとう けい)