最近の研究成果

離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達を担う脂質膜ナノチューブの形成を誘導する仕組み

深井 周也(蛋白質複合体解析研究分野(放射光連携研究機構))
Scientific Reports(9月16日)

発表概要

東京大学放射光連携研究機構(雨宮慶幸機構長)の深井周也准教授らのグループは、離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達を担う脂質膜ナノチューブ(Tunneling nanotube、TNT)の形成を誘導するタンパク質M-Secの立体構造を決定し、さらに、細胞の特定の膜領域に局在する分子メカニズムを明らかにすることにより、離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達を担うTNTの形成を誘導する仕組みを解明しました。
TNTは細胞間の輸送やシグナル伝達に重要である一方、エイズウイルス(HIV-1)をはじめとするウイルスはTNTを利用して細胞外に出ることなく細胞から細胞へと感染することで、免疫系を逃れて感染が拡大することが知られています。M-Secはマクロファージや樹状細胞、神経系のミクログリアといった細胞や、一部の腫瘍細胞に発現し、細胞内の膜輸送を制御するRal-Exocyst経路との相互作用により、TNT形成を誘導します。研究グループの理化学研究所の大野博司グループディレクターと北海道大学大学院医学研究科の木村俊介助教らは、この分子メカニズムを発見し、2009年にNature Cell Biology誌に発表しましたが、その仕組みの詳細は不明でした。
本研究グループは、M-Secの立体構造をX線結晶構造解析の手法で決定し、さらに、M-Secがイノシトールリン脂質PI(4,5)P2を目印として認識して膜に局在し、Ral-Exocystとの結合を介して、膜を変形させることでTNTの形成を誘導する仕組みを明らかにしました。本成果は免疫系や神経系における細胞間コミュニケーション機構の解明や、感染症の治療に関わる今後の研究に役立つ知見になると期待されます。

雑誌名等

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: Distinct Roles for the N- and C-terminal Regions of M-Sec in Plasma Membrane Deformation during Tunneling Nanotube Formation
著者: Shunsuke Kimura, Masami Yamashita, Megumi Yamagami-Kimura, Yusuke Sato, Atsushi Yamagata, Yoshihiro Kobashigawa, Fuyuhiko Inagaki, Takako Amada, Koji Hase, Toshihiko Iwanaga, Hiroshi Ohno* & Shuya Fukai*
DOI番号: 10.1038/srep33548

問い合わせ先

東京大学放射光連携研究機構構造生命科学部門構造生物学研究室
准教授 深井 周也(ふかい しゅうや)

理化学研究所 統合生命医科学研究センター 粘膜システム研究グループ
グループディレクター 大野 博司(おおの ひろし)

北海道大学大学院医学研究科解剖学講座組織細胞学分野
助教 木村 俊介(きむら しゅんすけ)