病原性寄生虫ジアルジアのゲノムDNA折りたたみの基盤構造を解明(8月6日)(クロマチン構造機能研究分野)

クロマチン構造機能研究分野の佐藤祥子特任助教、滝沢由政准教授、胡桃坂仁志教授らのグループは、病原性寄生虫であるジアルジアのDNA折りたたみの基盤構造を解明し、他の生物種とは異なる特徴的な部分構造をもつことを明らかにしました。

真核生物のゲノムDNAは、様々なタンパク質と複合体を形成し、折りたたまれて核内に収納されています。遺伝子の発現制御や、遺伝情報の次世代への継承は、折りたたまれたDNA上で起こります。このDNA折りたたみの基本単位は、ヌクレオソームと呼ばれる構造体で、円盤状のタンパク質複合体にDNAが巻きついた規則的な構造を形成しています。ヌクレオソームは、DNAの折りたたみ構造を決める、遺伝子制御の基盤となる構造体です。ジアルジアは、ヒトなどの小腸に寄生する寄生虫で、世界で最も感染者数の多い感染症の一つであるジアルジア症の原因となる病原体です。ジアルジアのDNAもまた、ヌクレオソームを基盤構造として折りたたまれています。しかし、ジアルジアのヌクレオソームの構造や性質は、今まで不明でした。本研究では、ジアルジアのヌクレオソームを試験管内で再構成し、クライオ電子顕微鏡解析と生化学的解析を組み合わせることにより、ヌクレオソームの詳細な三次元構造を世界で初めて解明しました。

本研究で、ジアルジアのヌクレオソームは、DNAの末端がヒストンから剥がれ、“開いた”構造を形成することが明らかになりました。また、ヌクレオソーム表面にあるタンパク質の結合領域が他の生物とは異なる形をしており、ヌクレオソームに結合する因子の種類などが、ヒトとジアルジアのヌクレオソームでは異なることが考えられました。

本研究で明らかになった構造情報は、ジアルジアに特異的に作用する薬剤を探索する基盤となり、医薬品開発につながることが期待されます。

本研究は、がん研究会がん研究所の立和名博昭博士、高エネルギー加速器研究機構の安達成彦博士、およびNational University of Ireland GalwayのAndrew Flaus博士らのグループとの共同研究で行われました。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「エピジェネティクス研究と創薬のための再構成クロマチンの生産と性状解析」(代表:胡桃坂仁志、JP21am0101076)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「胡桃坂クロマチンアトラスプロジェクト」(研究総括:胡桃坂仁志、JPMJER1901)、および日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)「遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル」(代表:胡桃坂仁志、JP18H05534)の支援を受けて実施されました。また、電子顕微鏡解析は、AMED BINDS(代表:千田俊哉、JP21am0101071、代表:吉川雅英、JP21am0101115)からの支援を受けて実施されました。


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