沖縄のサンゴ礁にすむ海洋生物から強力な細胞増殖阻害物質を発見 -抗がん剤への応用が期待-(6月13日)(膜蛋白質解析研究分野)

 慶應義塾大学大学院理工学研究科の栗澤尚瑛(博士課程3年)、寺沼和哉(修士課程2年)、同大学理工学部の岩崎有紘専任講師、末永聖武教授は、伊江島(沖縄県伊江村)のサンゴ礁で採集した海洋シアノバクテリアから、抗がん剤への応用が期待される強力な細胞増殖阻害物質を発見しました。

 生物がつくる物質には、病気の治療に有効な作用をもつものが含まれます。こうした物質を新しく発見するために、研究チームは沖縄・奄美地方の海洋生物を対象に探索を続けてきました。その結果、伊江島のサンゴ礁で採集した海洋シアノバクテリアから、極めて低濃度で細胞の増殖を抑える新しい化学物質を発見し、イエゾシドと名付けました。詳細な解析の結果、イエゾシドは細胞内にある小胞体膜上のカルシウムイオンポンプ(SERCA)の働きを強力に抑える作用をもち、その強さはこれまで人類が発見した化学物質の中で2番目に強いものであることを明らかにしました。さらに研究チームはイエゾシドの化学合成にも成功し、大量供給ルートを開拓しました。SERCA は、近年がんの治療標的として注目を集めているタンパク質で、実際に SERCA を標的とする前立腺がんの治療薬開発が進められています。そのため、今回発見したイエゾシドが、抗がん剤開発に応用されることが期待されます。

 本研究は、公益財団法人がん研究会の旦慎吾博士、東京大学定量生命科学研究所の豊島近特任教授、弘前大学の橋本勝教授との共同研究で実施されました。本研究成果は米国化学会が発行する Journal of the American Chemical Society 誌のオンライン版で6月8日に発表されました。

 


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