遺伝情報を守るメカニズムを発見 ―DNAを素早くコピーすることが遺伝情報の安定な維持に大切―(3月31日)(ゲノム再生研究分野)

細胞が増える時には、事前にDNA(注1)を正確にコピー(複製)し、複製されたDNAを娘細胞に分配します。DNAの遺伝情報を短時間でコピーするために、細胞はDNA上の多くの場所から複製を始めます。DNA複製過程で異常が起こると、誤った遺伝情報が娘細胞に受け渡され、がんや様々な病気の発症につながります。東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授と佐々木真理子助教、後藤真由子大学院生は、細胞周期の進行、特にDNA複製の開始を司るClb5タンパク質をもたない出芽酵母(注2)の細胞では、リボソームRNA反復遺伝子(注3、4)の一部が削られたり増幅したりしてDNAが不安定(注5)になることを発見しました。Clb5タンパク質がないと、DNA複製開始の頻度が減少し、複製開始点同士の間隔が長くなり、複製装置が長く移動する必要が生じます。そのため複製装置の停止などのトラブルに遭遇しやすくなることが明らかになりました。これらの発見から、細胞がどのようなメカニズムで膨大な遺伝情報を正確に複製し、がん化などを回避しているのかを明らかにすることができました。

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(注1)DNA:細胞の中に含まれる紐状の物質で、4種類の異なる記号が並んでいます。この記号の組み合わせによって、遺伝情報を司る遺伝子がコードされています。

(注2)出芽酵母:単細胞のカビ、キノコの仲間。パンの発酵、アルコール飲料、醤油など食生活に欠かせない生物で、ヒトを含む真核細胞のモデル生物としてもっとも研究されています。

(注3)リボソームRNA遺伝子:リボソーム(注4)の作用の中心を担うRNA分子を作る遺伝子。リボソームRNAは細胞の中のRNA分子の半分以上をしめるため、その遺伝子も1つでは足らずに、数百個が直列に並んで染色体上に存在しています。その繰り返し構造のため、こんがらがったり切れたりして傷が生じやすく、変異が起こりやすい、壊れやすい領域になっています。

(注4)リボソーム:遺伝情報を読み取ってタンパク質を合成する粒子。全ての生物が持つ、もっとも重要で基本的な装置の1つです。約80種類のリボソームタンパク質と反応の中心を担うリボソームRNAからなります。

(注5)DNAの不安定化:体を構成するすべての細胞は、全く同じ配列、数、並び方のDNAをもつ必要があります。しかし、なんらかの理由でDNAの配列、数、並び方が変化する現象をDNAの不安定化と呼びます。がん細胞ではDNA不安定化が頻繁に起こることが知られています。