コヒーシン複合体による新たな遺伝子発現制御機構の一端を解明 ―希少疾患や白血病の原因解明の糸口に―(6月10日)(大規模生命情報解析研究分野)

 コヒーシンはゲノムの立体構造制御や遺伝子発現制御に重要な役割を果たすタンパク質複合体です。コヒーシンのもつ機能は多様であり、これまでにクロマチンループ(以後ループと呼ぶ)の形成による遺伝子発現促進、逆にループ形成を阻害して遺伝子発現を抑制するなどの機能が報告されていますが、数万か所ものゲノム領域に結合するコヒーシンが果たす役割の全貌はいまだ明らかにはなっていません。

 東京大学大学院医学系研究科の王健康大学院生、定量生命科学研究所附属高度細胞多様性研究センター大規模生命情報解析研究分野の中戸隆一郎講師らは、遺伝子領域内に結合しループを形成しているコヒーシンが転写活性化によって結合が失われる、すなわち「転写活性と負の相関を示す」コヒーシンに注目し、そのようなコヒーシン結合部位をdecreased intragenic cohesin sites(DICs)と名付けました。同研究所ゲノム情報解析研究分野の坂東優篤講師、白髭克彦教授らと共に、エピゲノム、遺伝子発現、ゲノム立体構造など様々な情報を含む大規模なゲノムデータを生成し、機械学習と組み合わせた全ゲノム解析を実施しました。その結果、DICsが転写に必須の因子であるRNAポリメラーゼ2の結合または伸長に関与しているらしいこと、コヒーシン関連の疾患細胞において特徴的な結合の変化を示すことなどを発見しました。以上の成果は、未解明だったコヒーシンとクロマチンループの機能の一端を明らかにするものであり、コヒーシンに関連する希少疾患や、急性骨髄性白血病(AML)などのがんの機序解明にも貢献すると期待されます。

 


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