細胞の運命を司る転写因子GATA3のDNA結合メカニズムの解明
〜乳がんなどの疾患の原因解明への糸口に〜 (8月18日)(クロマチン構造機能研究分野)
胡桃坂仁志教授ら東京大学定量生命科学研究所のグループは、遺伝子の読み取り(転写)のオン・オフを制御する転写因子GATA3が染色体中で標的DNA配列を認識して結合するメカニズムを明らかにしました。
転写因子は特定のDNA配列を認識してゲノムDNAに結合し、遺伝子の転写を制御することで細胞の形態や性質といった運命決定に関わります。細胞内において、遺伝子の本体であるDNAは、ヌクレオソーム(注1)構造を基本単位とした染色体として折りたたまれ、転写因子の結合を阻害します。一方で、パイオニア転写因子と呼ばれる特殊な転写因子群は、標的DNA配列がヌクレオソームによって折りたたまれている場合でもDNAに結合することができ、遺伝子の転写を活性化することが報告されています。それによって、細胞の分化が誘導され、さまざまな組織や臓器が形成されていくことが明らかになっています。しかし、パイオニア転写因子がどのようにヌクレオソーム上の標的DNA配列を探索し結合するのかは、立体構造に基づく知見が乏しく、謎に包まれていました。
本研究グループは、パイオニア転写因子GATA3に着目し、最新のクライオ電子顕微鏡(注2)を使った立体構造解析と、試験管内解析、ゲノム解析を行いました。その結果、GATA3がヌクレオソームを認識して結合する際には、ヌクレオソーム上での標的DNA配列の位置が重要であること、GATA3が2つあるDNA結合領域を巧みに利用することでヌクレオソームに安定に結合することを明らかにしました。
本成果は、パイオニア転写因子がヌクレオソームに結合し、その後の転写制御を担うメカニズムを解明する上で、重要な知見を与えます。また、GATA3の遺伝子変異は乳がんや遺伝病であるHDR症候群(注3)に関与することから、今回の発見はこれらの疾患の原因解明や治療法確立のための基盤となることが期待されます。
本研究は、東京大学定量生命科学研究所のグループと、米国国立衛生研究所のPaul Wade博士および米国ノースダコタ大学の高久誉大博士との共同研究として行われました。
本研究成果は、2020年 8月18日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
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