定量生命科学研究所セミナー(12月5日)

日 時: 2023年12月5日(火) 15:00~16:00

場 所: 生命科学総合研究棟A棟410室

講 師: 松島 和洋  博士

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)Didier Trono研究室 ポスドク研究員

演 題:

進化系統特異的なSCANドメイン転写因子群のトランスポゾンを介したクロマチン構造制御

要 旨:

近年、転移因⼦(TE)由来の配列は宿主ゲノムにおいて新規の遺伝⼦や制御配列の形成に寄与
していることが分かってきた。中でも、ヒトゲノム中最⼤の転写因⼦群であるKRAB zinc-finger
protein (KZFP)は、特定のTE由来配列に抑制性複合体を誘導することで近傍領域をヘテロクロマ
チン化することが知られる。KZFPの近縁転写因⼦群としてSCAN zinc-finger protein (SZFP)があ
り、これもヒトゲノム内に多数⾒られる。個々の遺伝⼦について様々な⽣物学的役割が⽰唆され
ているが、この転写因⼦群の進化過程、標的領域、分⼦機序は未知である。
ヒトSZFP55個の全てについて、HA標識したものを293T細胞に発現することでChIP-seqを⾏い、
ゲノムワイドな結合部位を同定した。その結果、SZFPもKZFP同様に特定のTEを認識して結合す
ることが明らかとなった。また、SZFPのアミノ酸配列を68種の四肢動物ゲノムを横断して⽐較し
たところ、系統特異的なパラログの存在やDNA結合残基の急速な進化が⾒られた。ヒトSZFPの
DNA結合残基の進化時期とこれらが標的とするTEの出現時期が⼀致するため、新規TEへの結合能
により正の選択がなされたことが⽰唆される。
SZFPが共通で持つSCANドメインはレトロウイルスのカプシド由来であり、安定なホモおよび
ヘテロ⼆量体を形成することが知られている。そこで、293Tで⾼発現しているSZFPである
ZNF444についてHiChIPを⾏ったところ、SZFP結合部位間でDNAループが形成されていることを
発⾒した。これらのループはCTCF等既知のクロマチン構造体結合部位との相関は⾒られない。
以上のことから、SZFPは急速に進化するTE由来配列に結合し、SCANドメインの⼆量化を通じ
てDNAループを形成する新規の三次元ゲノム構造体だと⾔える。種特異的なクロマチン構造や転
写制御機構を説明しうるものだと考えられる。


幹 事︓分子神経生物学研究分野
共 催︓東京大学定量生命科学研究所