- Structural basis of RNAPII transcription on the nucleosome containing histone variant H2A.B.
Akatsu M, Hirano R, Kujirai T, Ogasawara M, Ehara H, Sekine SI, Takizawa Y, Kurumizaka H.
EMBO J. 2025 May 30. doi: 10.1038/s44318-025-00473-6.ヒストンバリアントH2A.Bは哺乳類の精子形成時に重要な役割を果たすヒストンである。本研究では、RNAポリメラーゼIIがH2A.Bを含むヌクレオソーム(H2A.Bヌクレオソーム)上でどのようにして転写を進行するのかについて、生化学的解析と構造生物学的解析によって明らかにした。生化学的解析から、H2A.Bヌクレオソームでは通常型であるH2Aヌクレオソームと比較して転写が効率よく進行することが明らかになった。クライオ電子顕微鏡を用いた構造生物学的解析より、H2A.Bヌクレオソーム上における転写の過程で2分子あるH2A.B-H2B二量体のうちの1分子が転写の過程でヌクレオソームから解離することが明らかになった。これらの成果は、ヌクレオソーム中のH2A.Bが転写の効率的な進行に寄与することを示すとともに、遺伝子発現におけるヒストンバリアントの役割解明に新たな知見を提供するものである。
- Cryo-EM Structures of Native Chromatin Units From Human Cells.
Hatazawa S, Fukuda Y, Kobayashi Y, Negishi L, Kikkawa M, Takizawa Y, Kurumizaka H.
Genes Cells. 2025 Apr 14. doi: 10.1111/gtc.70019.これまでのクロマチン構造解析は、人工的に再構成したヌクレオソームを対象とした解析が中心であった。一方で、細胞核内クロマチンの立体構造解析は、依然として技術的な障壁が大きく、実際の核内におけるクロマチン構造は未解明の部分が多い。本研究では細胞 核内のクロマチン構造の解明に向けて、高次構造情報を保持した状態でヒト細胞からクロマチンを調製し、その構造をクライオ電子顕微鏡により解析する方法を確立した。そして、細胞由来のヌクレオソームは、人工的に再構成されたヌクレオソームと非常に類似した構造であることが明らかとなった。さらに、クロマチンにおけるヌクレオソーム配向の解析を行った結果、ヌクレオソームが規則的に配列したファイバー様構造に加え、不規則に凝集したヌクレオソームクラッチ様構造も観察された。本研究で確立された解析技術は、細胞核内のクロマチン構造の理解に有力な手法を提供する。
- Cryo-EM structures of the BAF-Lamin A/C complex bound to nucleosomes.
Horikoshi N, Miyake R, Sogawa-Fujiwara C, Ogasawara M, Takizawa Y, Kurumizaka H.
Nat Commun. 2025 Feb 10. doi: 10.1038/s41467-025-56823-9.Barrier-to-autointegration factor (BAF) は、染色体分配後に核膜タンパク質やラミンA/Cを染色体上へと集積させ、核膜の再形成および修復に重要な役割を果たしている。またBAFは、核内膜タンパク質とクロマチンとの架橋にも関わることが示唆されている。本研究では、BAFとラミンA/CのIg-foldドメイン (IgF)がヌクレオソームに結合した複数の複合体構造を、クライオ電子顕微鏡構造解析(cryo-EM)によって明らかにした。そのうち一つの複合体構造においては、BAF二量体とラミンA/C IgFがヌクレオソームの対象軸(dyad)付近に結合する様子が観察され、別の構造では、さらに2つのBAF二量体がヌクレオソーム同士を架橋する様子が捉えられた。加えて、BAF、ラミンA/C IgF、ヌクレオソームおよびリンカーヒストンH1の複合体のcryo-EM構造解析により、ヒストンH1がBAFによるヌクレオソーム間の架橋を促進することが示唆された。これらの知見は、クロマチン構造の形成および核膜再形成の仕組みに新たな構造的理解をもたらすものである。
- Cryo-EM structures of RAD51 assembled on nucleosomes containing a DSB site.
Shioi T, Hatazawa S, Oya E, Hosoya N, Kobayashi W, Ogasawara M, Kobayashi T, Takizawa Y, Kurumizaka H.
Nature. 2024 Mar 20 doi: 10.1038/s41586-024-07196-4.RAD51は相同組換えにおいて中心的な役割を果たすタンパク質である。この論文では、クライオ電子顕微鏡を用いてRAD51とヌクレオソームの複合体の構造を解析し、RAD51がどのようにクロマチン上の二本鎖切断部位に集積し相同組換えを進行するのかを明らかにした。RAD51は、ヌクレオソーム上で2種類のリング構造を形成するだけでなく、DNAをヌクレオソームから引き剥がしてヌクレオソーム-フィラメント構造を形成していた。また、RAD51はN末端ローブドメイン(NLD)を介してヌクレオソームと結合しており、in vivoとin vitroの両方でNLDの重要性を示した。
- Cryo-EM structures of RNA polymerase II-nucleosome complexes rewrapping transcribed DNA.
Akatsu M, Ehara H, Kujirai T, Fujita R, Ito T, Osumi K, Ogasawara M, Takizawa Y, Sekine SI, Kurumizaka H
J Biol Chem. 2023 Nov 17. doi: 10.1016/j.jbc.2023.105477.RNAポリメラーゼII はヌクレオソーム上のDNAを引き剥がしながら転写を進行する。本研究では、転写の過程で生じる「DNA looping」と呼ばれる現象について、クライオ電子顕微鏡構造解析を行った。その結果、RNAポリメラーゼIIがSHL(-1)で停止した2種類の立体構造を明らかにした。これらはヌクレオソームに巻き戻っている上流DNAの長さが異なっていた。併せて、RNAポリメラーゼIIに転写伸長因子Spt4/5, Elf1が結合した転写伸長複合体における「DNA looping」の構造解析を試みた。その結果、転写伸長状態のRNAポリメラーゼIIでは「DNA looping」が起こらないことが明らかになった。