クロマチン構造機能研究分野17がん抑制遺伝子産物であるp53タンパク質が染色体中の遺伝子スイッチをオンにする仕組みを解明ーがん悪性化の原因解明や創薬への糸口にー西村 正宏 (東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・特任研究員)滝沢 由政 (東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・准教授)野澤 佳世 (東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・助教 (研究当時))胡桃坂 仁志 (東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・教授)雑誌名:PNAS Nexus論文タイトル:Structural basis for the p53 binding to its 著者:Masahiro Nishimura, Yoshimasa Takizawa, Kayo 発表のポイント:◆がん抑制遺伝子産物p53が、染色体の基盤構造であるヌクレオソームに含まれる標的DNA配列と結合し、遺伝子のスイッチをオンにする仕組みを、クライオ電子顕微鏡によって世界で初めて明らかにした。◆p53は標的DNA配列と結合することで、染色体中のDNAの構造を大きく変化させることが分かった。◆p53によるDNA結合の破綻はがん悪性化を引き起こす原因であることから、本成果で得られた知見はがん治療を目指した創薬に重要である。発表の概要:東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の西村正宏 特任研究員、野澤佳世 助教 (研究当時、現東京工業大学生命理工学院准 教授)、滝沢由政 准教授、胡桃坂仁志 教授らの研究グループは、がん抑制に関わる主要な転写因子であるp53 が染色体の基盤構造 (ヌクレオソーム) と結合した複合体の立体構造を世界で初めて明らかにしました。られており、細胞が持つがん抑制機構において中心的な働きをすることが知られています。その遺伝子産物となるp53タンパク質は、ゲノムDNA上の特定の配列 (標的DNA配列)と結合し、がん抑制遺伝子群のスイッチをオンにすることで、細胞分裂の停止・DNA修復・プログラム細胞死等を誘導しnucleosomal target DNA sequenceNozawa, Hitoshi KurumizakaDOI 番号:10.1093/pnasnexus/pgac177p53遺伝子はおよそ半数のがん患者において突然変異が認めJpEnStructural basis for the nucleosome binding by “Guardian of the genome” p53ます。そのためp53は”ゲノムの守護神”とも呼ばれており、p53遺伝子の突然変異によってこれらの細胞機能が損なわれることが、がん化の主要な原因の一つであると考えられています。一方、真核生物のゲノムDNAはヒストン複合体に巻き付いた染色体構造を形成しており、p53が染色体中でがん抑制遺伝子のスイッチをオンにするメカニズムは不明でした。この疑問を解決するため当研究グループは、試験管内で再構成したヌクレオソームとp53からなる複合体を高純度に調製し、クライオ電子顕微鏡 を用いた立体構造解析をおこないました。その結果、p53が標的DNAと結合することで染色体中のDNAが大きく歪められることが明らかになりました。本成果は、真核生物の染色体中でp53が標的DNA配列と結合する様子を捉えた世界初の立体構造であり、p53ががん抑制遺伝子のスイッチをオンにするメカニズムの一端を解明したものです。それゆえ、p53の異常が原因となる発がんメカニズムの解明や新たな抗がん剤開発のための重要な足掛かりになることが期待されます。IQB Institute for Quantitative Biosciences |
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