13クロマチン構造機能研究分野Elucidation of the structural basis for binding of acetyltransferase p300 to the nucleosome真核生物の遺伝子発現制御を担う酵素が染色体の基盤構造に結合した様子を解明ー様々な疾患の発症メカニズムの解明や創薬への応用に期待ーacetyltransferase p300 to the nucleosomeHitoshi KurumizakaDOI番号:10.1016/j.isci.2022.104563JpEnことで、DNAの塩基配列に依存しない後成的な遺伝子制御を担っています。p300は主要なヒストンアセチル化酵素であり、多様なヒストンのアセチル化を介して特定の遺伝子の活性化を誘導することで、細胞機能の正常な維持に貢献しています。しかし、p300がどのようにヌクレオソームに結合して、クロマチンにおいてヒストンのアセチル化を触媒するのか、そのメカニズムは不明でした。そこで本研究チームは、試験管内で再構成したヌクレオソームと、アセチル基転移活性中心を含むp300ドメイン(p300活性ドメイン)の複合体を調製し、クライオ電子顕微鏡によってその複合体構造群を明らかにしました。その結果、p300活性ドメインはヌクレオソーム上の様々なポジションに結合することが分かりました。この性質によって、p300の特徴であるヌクレオソーム中の多様なヒストンのアセチル化が可能となっていると考えられました。他のアセチル化酵素においては、これまでにヌクレオソーム上の定まった位置での結合様式が報告されています。本研究ではこのような結合様式とは異なった、p300独自の結合様式を明らかにすることができました。p300によるヒストンアセチル化の制御異常は、がんや神経変性を引き起こすことが知られています。本研究で得られた知見によって、疾患モデル細胞におけるp300の制御異常に関する理解が進み、これらの疾患の発症メカニズムの解明や治療方法の確立につながることが期待されます。IQB Institute for Quantitative Biosciences |畠澤 卓(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻・博士後期課程)滝沢 由政(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・准教授)胡桃坂 仁志(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・教授)雑誌名:iScience論文タイトル: Structural basis for binding diversity of 著者: Suguru Hatazawa, Jiuyang Liu, Yoshimasa Takizawa, Mohamad Zandian, Lumi Negishi, Tatiana G. Kutateladze, 発表のポイント:◆ 発表者らの研究チームは、主要なアセチル化酵素の一つであるp300が、ゲノムDNAを収納しているヌクレオソームに結合した様子を世界で初めて解明しました。◆ p300はヌクレオソームの様々な位置に結合可能であることが明らかになり、この性質によってp300は多様なヒストンアセチル化に機能していることが示唆されました。◆ p300によるヒストンアセチル化の制御異常は、がんを含む様々な疾患を引き起こすことから、本研究で得られた知見は創薬に向けて応用されることが期待されます。発表の概要:東京大学大学院理学系研究科の畠澤卓 大学院生、東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の滝沢由政 准教授、胡桃坂仁志 教授らの研究チームは、コロラド大学のTatiana Kutateladze教授との共同研究で、細胞の恒常性維持に重要なタンパク質であるp300の活性ドメインと、ヒトのゲノムDNA収納の基盤構造であるヌクレオソームが結合した複合体の構造を世界で初めて解明しました。ヒトをはじめとする真核生物のゲノムDNAは、ヒストン複合体に巻き付いてヌクレオソームを形成し、これが数珠状に連なることでクロマチンを形成して細胞核内に収納されています。ヒストンのアセチル化はクロマチン構造を変化させる
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