IQB Handbook
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91IQB / INSTITUTE FOR QUANTITATIVE BIOSCIENCESResearch Center for Cellular Dynamics肝臓は薬物による急性肝障害や肝切除を受けても再生する臓器として知られています。しかし、長期にわたる飲酒やウイルス感染などにより慢性的な障害を受けると、適切な肝再生が行われないばかりか、肝臓内にコラーゲンなどの線維が蓄積する肝線維化が進行し、やがては肝硬変、肝がんへと進展します。肝臓には肝機能の大部分を担う肝実質細胞(肝細胞)と、その他の肝非実質細胞群(類洞内皮細胞、肝星細胞、胆管上皮細胞、血液細胞など)が存在します。これらの細胞が互いにコミュニケーションを取り合うことで細胞社会が形成されていますが、その破綻が重篤な病態につながるものと考えられます。本研究分野では、生活習慣病の一環として近年患者数が増加している非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を主な題材として、発症の起点となる細胞死から発がんに至るまでの各プロセスにおける細胞間相互作用を紐解くことで、肝疾患の新規治療法の開発や再生医療への応用に資することを目指します。特に、「幹/前駆細胞による肝再生」と「肝線維化」という2つの肝リモデリングに焦点を当てた研究を推進しています。幹細胞制御研究分野Laboratory of Stem Cell Regulation准教授(委嘱) 田中 稔 / 博士(農学)TANAKA Minoru (Ph. D.), Associate ProfessorOffice for Research and Ethics Promotion「科学技術と倫理」このところ研究をめぐる倫理が問われる事態が相次いでいます。しかし、これは日本に限ったことではありません。過去には世界各地で研究に対する政治的な圧力も起きました。科学者のあり方について考えています。同質な集団に異質な存在を同質な研究者が多い中で異質の存在でありたいと思います。活魚を長距離輸送するためには、異質な魚を一緒に入れておくと効果的とか。魚たちも緊張感を持つとで、寿命が延びるそうです。研究所も同じことではないかと考えます。理系の専門家ばかりが集まった研究室では、どうしても視野狭窄に陥りがちなのではないでしょうか。そんな中に、極めて異質な存在がいると、「あいつは何だ」という警戒感が走るのではないでしょうか。それが、研究所の活力になると考えます。古今東西、科学研究には、政治的圧力や研究者の嫉妬・虚栄心がつきものです。それが倫理にもとるものになってはいけません。研究所を生き生きと生存させるために、“異質な魚”でありたいと思います。同時に、歴史に範を求めることで、これからの研究を支える若者たちに歴史の教訓を伝えていけたらと願っています。科学技術と倫理研究分野Laboratory of Science Technology and Research Ethic客員教授 池上 彰IKEGAMI Akira, Visiting Professor所属:Affiliation : 肝疾患における再生や線維化を制御するメカニズムを細胞間相互作用から解明する。国立国際医療研究センター研究所Reserch Institute National Center for Global Health and Medicine東京大学 大学院新領域創成科学研究科Graduate School of Frontier Sciences, UTokyo同質な集団に異質な存在を

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