IQB Annual Report 2019
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Proceedings of National Academy of Sciences, U.S.A.論文タイトル:A key mammalian cholesterol synthesis enzyme, Squalene Monooxygenase, is allosterically stabilized by its substrate著者:Hiromasa Yoshioka, Hudson W. Coates, Ngee Kiat Chua, Yuichi Hashimoto, Andrew J. Brown*, Kenji Ohgane*DOI番号:./pnas.掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease/-/発表のポイント:□コレステロール合成経路上のスクアレンモノオキシゲナーゼ (SM)が、自身が基質とするスクアレンの量を検知してそれに応じて自身の安定性を増すという、コレステロール合成経路の恒常性維持に寄与しうる新しい機構を発見しました。□スクアレンがSMの非触媒ドメインにも結合して、その安定性を正に制御していることを見出しました。このような基質が自身を代謝する酵素をアロステリックに安定化する例は、ほとんど報告がありません。□SMはコレステロール合成に必須であることから、その活性・存在量の制御は、動脈硬化などコレステロールが憎悪因子となる疾患の治療薬開発に貢献できる可能性があります。また近年、SMとがんの関連が示唆されていることから、がん研究の進展にも貢献しうる可能性があります。──────── コレステロールは高等生物にとって必須の脂質です。しかしながら、コレステロールの生合成には多量のエネルギーが必要であり、また過剰のコレステロールは動脈硬化等の疾患の憎悪因子であるため、その生合成量は厳密に制御されています。よく知られた例としては、コレステロールが自身の合成等に必要なタンパク質群の転写を抑制することが知られています。このような、必要なタンパク質群を「作る速さ」を調節する仕組みは、分子レベルで機序が明らかとなっています。一方、「壊す速さ」を調節する仕組みがあることも近年わかってきていますが、その機序には謎が多く残っています。 今回、生体有機化学研究分野の吉岡広大大学院生、大金賢司助教、橋本祐一教授ら、および、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のAndrew J. Brown教授らの研究チームは、コレステロール合成経路の律速酵素の一つであるスクアレンモノオキシゲナーゼ (SM) がその基質であるスクアレンを感知してSM自身を安定化するという、分解速度の調節を介したコレステロール恒常性維持機構を新たに見出しました。詳細な解析の結果、スクアレンはSMのN末端制御領域に結合することで感知され、タンパク質の分解を担うEユビキチンリガーゼとの相互作用が減少し、分解が遅くなることを明らかにしました。このSMの安定化には、基質の蓄積を感知して、それを素早く代謝する意義があると考えられます。 また本研究成果は、酵素活性の阻害とは全く異なる、新しい機序のコレステロール恒常性調節薬の開発に役立つことが期待されます。生体有機化学研究分野コレステロール合成経路の新たな制御ポイント:スクアレンモノオキシゲナーゼが基質により安定化されるメカニズムを解明吉岡 広大(生体有機化学研究分野・大学院生)橋本 祐一(生体有機化学研究分野・教授)大金 賢司(生体有機化学研究分野・助教)15IQB Institute for Quantitative Biosciences |

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