IQB Annual Report 2019
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遺伝子発現ダイナミクス研究分野高次ゲノム構造が遺伝子発現を制御する仕組みを解明余越 萌(遺伝子発現ダイナミクス研究分野・助教)深谷 雄志(遺伝子発現ダイナミクス研究分野・講師)Molecular Cell論文タイトル:Visualizing the role of boundary elements in enhancer-promoter communication著者:Moe Yokoshi, Kazuma Segawa, *Takashi FukayaDOI番号:./j.molcel...掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease//発表のポイント:□TADと呼ばれる高次ゲノム構造が遺伝子発現制御に果たす機能を、ショウジョウバエ初期胚において直接可視化するライブイメージング技術の構築に成功しました。□TADに依存した転写活性化と、非依存的な転写活性化という2つの異なる遺伝子発現経路が存在することを発見しました。□染色体の基本的な構造単位であるTADの機能が解明されたことで、「ゲノム情報がどのように読み出されるのか」という根本的な謎の解明が期待されます。──────── 転写制御において中心的な役割を担うのはエンハンサーと呼ばれる調節配列です。エンハンサーは転写活性のON/OFを切り替えるスイッチとして働くことで、個体発生における遺伝子発現を緻密に制御しています。重要なことに近年、ゲノムはTopologically Associating Domain(TAD)と呼ばれるループ構造を基本単位として緻密に折り畳まれていることが理解されてきました。つまりエンハンサーは、こうしたゲノムの三次元的な折り畳み構造の中において標的遺伝子に作用し、転写活性を制御していると考えられています。しかし、そもそもTADがエンハンサーによる転写制御においてどのような機能を果たすかについては未解明のままでした。 今回、遺伝子発現ダイナミクス研究分野の余越萌助教、深谷雄志講師らの研究チームは、TAD形成が転写活性に与える影響をショウジョウバエ生体内において直接可視化するライブイメージング技術を構築することに成功しました。その結果、エンハンサーにはTAD形成に依存して初めて機能を発揮するものと、依存せずに働くものの二種類が存在することを発見しました。さらに、こうした依存性の違いは「遺伝子とエンハンサーの相対的な位置関係」によって生み出されていることを解明されました。以上の成果は、生物の持つゲノム情報がどのように発生段階や環境変化に応じて正確に読み出されているのかという基本原理の解明につながるものと期待されます。蛋白質複合体解析研究分野神経細胞間の信号伝達を担う接着構造を形成する仕組みの解明深井 周也(蛋白質複合体解析研究分野・准教授)Nature Communications(オンライン版:月日)論文タイトル:Structural insights into selective interaction between type IIa receptor protein tyrosine phosphatases and Liprin-α著者:Maiko Wakita, Atsushi Yamagata, Tomoko Shiroshima, Hironori Izumi, Asami Maeda, Mizuki Sendo, Ayako Imai, Keiko Kubota, Sakurako Goto-Ito, Yusuke Sato, Hisashi Mori, Tomoyuki Yoshida, and Shuya FukaiDOI番号:./s---掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease//発表のポイント:□神経細胞間の信号伝達を担う接着構造であるシナプスの形成を誘導する膜受容体チロシン脱リン酸化酵素PTPδ(デルタ)が、細胞内のシナプスタンパク質Liprin-αを介してシナプス形成を誘導する仕組みを明らかにしました。□PTPδとLiprin-αが結合した状態の立体構造を決定し、相互作用する様子の詳細を明らかにしました。□本成果は、神経回路形成のメカニズムの解明や自閉症などの神経発達障害に関わる今後の研究に役立つ知見になると期待されます。──────── 蛋白質複合体解析研究分野の深井周也准教授らのグループは、神経細胞間の信号伝達を担う接着構造であるシナプスの形成を誘導する膜受容体チロシン脱リン酸化酵素PTPδと細胞内のアダプタータンパク質Liprin-αが結合した状態の立体構造を決定し、シナプス形成を誘導する仕組みの一端を明らかにしました。シナプスの形成と再編は、脳発達期の神経回路の形成や記憶学習の際に起きる重要なステップであり、その調節機構の破綻は自閉症などの神経発達障害の発症と密接に関連することが示唆されています。神経発達障害の発症に関連する細胞接着分子であるPTPδは軸索終末に発現し、樹状突起に発現する別の細胞接着分子と相互作用することでシナプス形成を誘導します。深井准教授らの研究グループは、PTPδとLiprin-αが結合した状態の立体構造をX線結晶構造解析の手法で決定することによって、これらの分子が選択的に相互作用するメカニズムの詳細を明らかにしました。さらに、PTPδとLiprin-αの相互作用が失われることで、シナプス形成が大幅に減少することを見出しました。本成果は、神経回路形成のメカニズムの解明や自閉症などの神経発達障害の発症機構に関わる、今後の研究に役立つ知見になると期待されます。14| IQB Institute for Quantitative Biosciences

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