IQB Annual Report 2019
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蛋白質複合体解析研究分野不要なタンパク質が分解を受ける前に解きほぐされる仕組み深井 周也(蛋白質複合体解析研究分野・准教授)Nature Communications論文タイトル:Structural insights into ubiquitin recognition and Ufd interaction of Npl著者:Yusuke Sato, Hikaru Tsuchiya, Atsushi Yamagata, Kei Okatsu, Keiji Tanaka, Yasushi Saeki*, and Shuya Fukai*DOI番号:./s---y掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease//発表のポイント: □Cdcの2つの補因子、UfdとNplが結合する分子機構を明らかにしました。□NplがLysでつながったユビキチン鎖を認識する分子機構を明らかにしました。□本成果は、Cdc‒Ufd‒Npl複合体が形成される分子機構、および標的タンパク質を認識する分子機構を明らかにしたもので、細胞のがん化や神経変性疾患を抑えるための基盤となる知見になると期待されます。──────── 蛋白質複合体解析研究分野の深井周也准教授と東京都医学総合研究所(田中啓二理事長)の佐伯泰副参事研究員の共同研究グループは、不要なタンパク質や異常タンパク質を解きほぐす酵素であるCdcの、つの補因子UfdとNplが結合する仕組みと、Nplがユビキチン鎖を認識する方法を明らかにしました。 これまでの研究により、Cdcの補因子Nplがユビキチン鎖を認識する事でCdcはユビキチン鎖で標識されたタンパク質を解きほぐすことが知られていましたが、Nplがどの部分を使ってどのようにユビキチン鎖を認識しているのかは不明でした。また、Cdcが機能を果たすためにはCdc、Ufd、Nplがそれぞれ相互作用して安定な複合体を形成する必要がありますが、UfdとNplがどのように結合しているのかも不明でした。共同研究グループは、ユビキチン鎖およびUfdがNplと結合した状態の立体構造を決定し、さらに分子・細胞レベルでの変異体解析を行うことで、Cdc‒Ufd‒Npl複合体の形成機構や、Nplによるユビキチン鎖認識の分子機構を明らかにしました。Cdcは細胞のがん化や神経変性疾患に係るため、本成果はこれらの疾病の原因の解明や、創薬につながる知見になると期待されます。希少疾患分子病態研究分野/ゲノム情報解析分野RNA スプライシング関連分子 NKAP変異を原因とする新規希少疾患の同定泉 幸佑(希少疾患分子病態研究分野・客員准教授)白髭 克彦(ゲノム情報解析研究分野・教授)The American Journal of Human Genetics論文タイトル:Missense Mutations in NKAP cause a Disorder of Transcriptional Regulation Characterized by Marfanoid Habitus and Cognitive Impairment著者:Sarah K. Fiordaliso, Aiko Iwata-Otsubo, Alyssa L. Ritter, Mathieu Quesnel-Vallieres, Katsunori Fujiki, Eriko Nishi, Miroslava Hancarova, Noriko Miyake, Jenny EV. Morton, Sangmoon Lee, Karl Hackmann, Masashige Bando, Koji Masuda, Ryuichiro Nakato, Michiko Arakawa, Elizabeth Bhoj, Dong Li, Hakon Hakonarson, Ryojun Takeda, Margaret Harr, Beth Keena, Elaine H. Zackai, Nobuhiko Okamoto, Seiji Mizuno, Jung Min Ko, Alica Valachova, Darina Prchalova, Marketa Vlckova, Tommaso Pippucci, Christoph Seiler, Murim Choi, Naomichi Matsumoto, Nataliya DiDonato, Yoseph Barash, Zdenek Sedlacek, Katsuhiko Shirahige, Kosuke Izumi* DOI番号:./j.ajhg...掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease//発表のポイント: □RNAスプライシング関連因子として知られる NKAP 遺伝子変異により知的障害、Marfan症候群に類似した身体的特徴を有する新規希少疾患を発症することが明らかになりました。□ヒトを含む脊椎動物において NKAP が初期発生に重要な役割を果たすことが明らかになりました。□RNAスプライシングは遺伝性疾患以外の病態への関与も知られており、標的薬剤も開発されています。希少疾患との関連が明らかになったことで治療への応用が期待されます。──────── NKAP は遺伝子の発現に関与する RNA スプライシングを担うとされる分子です。NKAP の機能には不明な点が多く、生殖細胞系列での変異がどのような疾患をおこすのかは不明でした。 希少疾患分子病態研究分野の泉客員准教授、ゲノム情報解析研究分野の白髭教授らは NKAP 遺伝子に変異をもった 家系人の男性を発見しました。患者は知的障害、Marfan 症候群に類似した細長い手指や胸郭変形などの骨格異常をもち、新規の希少疾患であることを見出しました。患者の細胞の遺伝子発現を解析したところ、NKAP変異により多数の遺伝子発現に変動をきたしていました。NKAP遺伝子に患者と同様の変異をもつゼブラフィッシュは早期に死亡しており、NKAP は脊椎動物の個体発生に必須な遺伝子と考えられます。今回の研究から、RNA スプライシング関連分子の機能異常が神経発達遅滞・骨系統異常を引き起こすことが明らかになりました。 RNA スプライシング異常はがんにおいても高頻度で認められ、創薬が近年進んでおり、本病態への治療に応用することも今後期待されます。12| IQB Institute for Quantitative Biosciences

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