IQB Annual Report 2019
12/36

ゲノム再生研究分野「老化と若返りの鍵を握る遺伝子」は、自ら病院を訪れ、治療を受ける~リボソームRNA遺伝子の核膜孔への移動を発見~堀籠 智洋(ゲノム再生研究分野・助教)大木 孝将(ゲノム再生研究分野・大学院生)小林 武彦(ゲノム再生研究分野・教授)PLOS Genetics論文タイトル:Ribosomal RNA gene repeats associate with the nuclear pore complex for maintenance after DNA damage著者:*Chihiro Horigome, *Eri Unozawa, Takamasa Ooki, Takehiko Kobayashi (* equal contribution)DOI番号:./journal.pgen.掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/news//発表のポイント:□ DNA二本鎖切断を受けたリボソームRNA遺伝子(rDNA)が、核内を移動して核膜孔と結合することにより安定に維持されていることを明らかにしました。□ 損傷を受けたrDNAが修復される場所まで自らダイナミックに移動することを示した、考え方を大きく転換させる発見です(動的rDNAモデル)。□ rDNAの安定化は細胞の老化を抑制することが知られており、本研究成果が細胞老化と若返りの機構解明に寄与することが期待されます。──────── 地球上のすべての生物が持つリボソームRNA遺伝子(rDNA)は巨大な反復配列を形成しており、DNA二本鎖切断を受けると容易にコピー数が増減してしまう不安定な性質を持っています。このrDNA不安定化は細胞老化の原因の一つであることが知られており、rDNAの安定維持機構の理解はとても重要です。 今回、ゲノム再生研究分野の堀籠智洋助教、小林武彦教授らの研究チームはDNA二本鎖切断を受けたrDNAが核辺縁まで移動して、核膜孔複合体に結合することを発見しました。この移動と結合が失われるとrDNAが不安定になったことから、核膜孔結合がrDNA不安定化の抑制に重要な役割を果たしていると考えられます。 このような核膜への移動は、負傷した人が病院を訪れる様子とよく似ています。現場で処置できないような傷を負ったrDNAは、自ら動いて病院を訪れます。『核膜孔病院』ではrDNAを修復して安定化させる治療が行われていますが、これはすなわち老化を抑制するアンチエイジング治療でもあります。本研究で明らかとなった核膜孔への移動によるrDNA安定化の理解が、細胞の老化と若返りの機構の解明に寄与することが期待されます。 クロマチン構造機能研究分野紫外線により染色体DNAに発生した損傷を検出するメカニズムを解明胡桃坂 仁志(クロマチン構造機能研究分野・教授)Nature論文タイトル:DNA damage detection in nucleosomes involves DNA register shifting著者:Syota Matsumoto, Simone Cavadini, Richard D. Bunker, Ralph S. Grand, Alessandro Potenza, Julius Rabl, Junpei Yamamoto, Andreas D. Schenk, Dirk Schübeler, Shigenori Iwai, Kaoru Sugasawa, Hitoshi Kurumizaka, Nicolas H. ThomäDOI番号:./s---掲載:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/pressrelease//──────── 神戸大学バイオシグナル総合研究センターの菅澤 薫 教授、東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の胡桃坂 仁志 教授、大阪大学大学院基礎工学研究科の岩井 成憲 教授らは、スイスのフリードリッヒ・ミーシャー生物医学研究所等との共同研究で、細胞内で染色体構造を取ったゲノムDNAが紫外線によって損傷を受けたとき、この損傷を効率良く検出して修復を開始するしくみを分子レベルで解明しました。 今後、DNA損傷の速やかな修復を可能にする染色体構造の動的な変化とその制御機構に関する理解が進み、紫外線に対する防護や皮膚がんの抑制などへの応用につながることが期待されます。プレスリリース Press releases10| IQB Institute for Quantitative Biosciences

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る