研究内容の紹介
信ずることと知ることと覚えることと忘れること
払耳勒心とわざわざ序文に紹介された稗田阿礼の並外れた記憶の才によって古事記は成立したとされています。当時から記憶という脳の働きは自ずと明らかだったのでしょう。記憶はもっともよく知られた不思議な脳の働きの一つで、1000年以上経った今でも不思議であることに変わりはなく、私たちの興味を惹きつけてやみません。現在では、記憶を形成しつつある神経細胞の活動をまさにその時に顕微鏡下で観察できるようになっておりますが、まだまだ多くの部分は謎のままです。パブロフの犬で知られるような、2つの刺激を結びつける連合学習記憶は単純な記憶の一形態でありますが、昨日のできごとを思い出すこととメカニズムを共有していると考えられます。本研究室ではショウジョウバエの匂い連合学習記憶を対象に、記憶形成機構の理解を研究テーマとしています。個々の神経細胞の活性を制御することで、記憶回路にロジックを探り、顕微鏡下でショウジョウバエの記憶形成を再現し、その時に機能する神経系の働きを解析しています。一細胞レベルで“記憶する細胞”を観察し、そこに働く分子メカニズムを理解することが目的です。
