研究内容の紹介
タンパク質複合体の形成と機能の分子メカニズム
タンパク質や核酸などの生体高分子は一定の立体構造に折畳まれて機能します.したがって,生体高分子が働くメカニズムを解明するためには立体構造決定が不可欠です.本研究分野では,複数の生体高分子が特異的に相互作用して形成される複合体の立体構造解析によって,複合体が担う細胞内外の分子シグナリングや反応の制御メカニズムを原子分解能レベルで明らかにします.さらに,複合体の立体構造から明らかとなる複合体の形成原理と機能発現メカニズムを,変異体を用いたin vitroおよびin vivoでの機能解析によって裏付けます.
1.構造神経科学
中枢シナプス形成を誘導する膜受容体複合体(シナプスオーガナイザー)と下流シグナル複合体の立体構造解析と機能解析によって,シナプス形成を誘導するメカニズムを原子の解像度で明らかにする研究を行っています(Yamagata et al., Nat. Commun., 2015; Yamagata et al., Sci. Rep., 2015; Goto-Ito et al., Nat. Commun., 2018; Yamagata et al., Nat. Commun., 2018).さらに,シグナル伝達を調節するペプチドや低分子化合物の探索と疾患モデルマウスの行動への影響を解析することで神経発達障害への創薬標的を提示する共同研究を進めています.また,神経細胞が機能する上で重要な膜タンパク質や脂質の細胞内輸送に関わるタンパク質複合体の立体構造解析と機能解析も行っています(Yamashita et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 2010; Kimura et al., Sci. Rep., 2016; Chen et al., Sci. Rep., 2017; Goto-Ito et al., Sci. Rep., 2017; Yamagata et al., Nat. Commun., 2018など).
2.ユビキチンシグナリング
ユビキチンは76アミノ酸残基からなる小さなタンパク質で,プロテアソームによるタンパク質分解シグナルとしての機能が有名ですが,タンパク質分解以外にも様々な細胞機能の制御シグナルとしてはたらくことが近年の研究により明らかになっています.ユビキチンは自身のリジン残基またはN末端のメチオニン残基(M1)とC末端のグリシン残基(G76)がイソペプチド結合あるいはペプチド結合を介してつながることでユビキチン鎖を形成しますが,48番目のリジン(K48)を介してつながったユビキチン鎖がプロテアソームによる分解シグナルとしてはたらくのに対して,M1やK6,K63を介してつながったユビキチン鎖(M1鎖,K6鎖,K63鎖)はプロテアソームに依存しないシグナルとしてもはたらきます.私たちは,M1鎖やK63鎖が重要な役割を担っているDNA損傷応答や炎症シグナル、K6鎖やリン酸化ユビキチンの役割が注されているミトコンドリア品質管理を中心として,そのシグナル制御メカニズムを立体構造解析と機能解析により明らかにしています.DNA損傷や炎症は細胞のがん化に、また、ミトコンドリア品質管理は神経変性疾患の一つであるパーキンソン病に非常に密接に関わっており,得られた知見をもとに創薬基盤の提示を行っています(Sato et al., Nature, 2008; Sato et al., EMBO J., 2009a; Sato et al., EMBO J., 2009b; Sato et al., PNAS, 2011; Sato et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 2015; Sato et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 2017; Takahashi et al., Nat. Commun., 2018など).
