胡桃坂 仁志(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・教授)20雑誌名:Molecular Systems Biology論文タイトル:Modeling population size independent tissue epigenomes by ChIL-seq with single thin sections著者:Kazumitsu Maehara, Kosuke Tomimatsu, Akihito Harada, Kaori Tanaka, Shoko Sato, Megumi Fukuoka, Seiji Okada, Tetsuya Handa, Hitoshi Kurumizaka, Noriko Saitoh, Hiroshi Kimura, and Yasuyuki Ohkawa*DOI 番号:10.15252/msb.202110323発表のポイント:◆ 分子の移動度を評価する統計モデルを組み合わせることで、幹細胞のように多数派細胞に埋もれた少数派細胞も含めて組織全体のエピゲノム情報を解析できる新たな解析技術を開発した。◆ 3mm×3mm×10μm の小さな組織切片 1 枚から高感度かつ高精度なエピゲノム情報が取り出せる。◆ 従来法より細胞の損失が少なく、細胞にストレスを与えにくい。発表の概要: 筋肉や肝臓といった組織は、多様な種類の細胞から構成され、異なる役割を持つ細胞同士が協調的に働くことで、その機能を実現します。組織を構成する細胞の種類は、遺伝子の組み合わせで決定され、エピゲノムがその組み合わせ方を司ると考えられています。これまでの組織のエピゲノム解析は、幹細胞など組織中の少数派細胞の情報が、多数派に埋もれてしまうことが課題となっていました。 九州大学生体防御医学研究所の大川恭行教授、前原一満助教らは、一辺 3 mm 厚さ 10μm 程度の小さな組織切片に含まれる少数の細胞集団から、高感度かつ高精度なエピゲノム情報を抽出する技術を発表しました。この技術は、これまで同グループが発表してきた「クロマチン挿入標識(Chromatin Integration Labeling: ChIL)法(ChIL-seq)」を基礎として、今回さらに組織をターゲットとした解析法を開発しました。 本研究グループは、高感度な ChIL-seq の技術と、遺伝子発現を司る分子の移動度を評価する統計モデルを組み合わせ、埋もれた幹細胞の活性化情報を検出する新たな解析技術を開発しました。さらに本技術は、様々なステージの乳がん組織のプロファイリングに有用であることも示しました。この解析技術を使うことで、組織再生や再生医療の応用に必要な幹細胞や、組成が多様ながん組織などの詳細なメカニズムの解明が期待されます。 本研究は、東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター(木村宏教授ら)、東京大学定量生命科学研究所(胡桃坂仁志教授ら)、公益財団法人がん研究会がん研究所(斉藤典子部長ら)の研究グループとの共同研究で行われました。組織の細胞集団に潜む幹細胞のエピゲノム解析手法を開発がん組織の精密プロファイリングに成功Development of an Epigenomic Analysis Method for Minor Cell Populations in Tissue
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