IQB Annual Report 2021
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清水 謙次 (東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野・特任助教)杉浦 大祐 (東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野・助教)岡崎 一美 (東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野・准教授)丸橋 拓海 (東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野・助教)竹本 龍也 (徳島大学先端酵素学研究所 発生生物学分野・教授)岡崎 拓 (東京大学定量生命科学研究所 分子免疫学研究分野・教授)雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America論文タイトル:PD-1 preferentially inhibits the activation of low affinity T cells著者:Kenji Shimizu, Daisuke Sugiura, Il-mi Okazaki, Takumi Maruhashi, Tatsuya Takemoto, and Taku OkazakiDOI 番号:10.1073/pnas.2107141118発表のポイント:◆ 抑制性免疫補助受容体PD-1 が、全ての T 細胞を同等に抑制するのではなく、抗原への親和性が低い T 細胞を選択的に抑制していることを明らかにしました。◆ がんに対する PD-1 阻害療法において活性化される T 細胞の特性は未解明ですが、抗原への親和性の低い T 細胞の活性化が相対的に強く促されることが分かりました。◆ PD-1 による T 細胞抑制メカニズムの理解が進むとともに、PD-1 阻害抗体によるがん免疫療法の改良および新しい免疫制御療法の開発に役立つと期待されます。発表の概要: 病原体やがん細胞から我々の体を護る免疫システムにおいて司令塔と実行役の両方の役割を担う T 細胞は、抗原を認識することによって活性化します。T 細胞は個々の細胞が異なる抗原受容体を発現するため、標的とする抗原の種類および抗原への親和性が T 細胞ごとに異なります。これまでに抑制性免疫補助受容体 PD-1 が T 細胞の活性化を抑制することは知られていましたが、抗原親和性の違いが PD-1 による抑制に与える影響は不明でした。 今回、東京大学定量生命科学研究所の清水謙次特任助教と岡崎拓教授らの研究グループは、同一の抗原を異なる親和性19分子免疫学研究分野PD-1 は抗原親和性の低い T 細胞を選択的に抑制するPD-1 preferentially inhibits the activation of low affinity T cellstで認識する複数の抗原受容体および同一の抗原受容体によって異なる親和性で認識される複数の抗原を比較し、抗原親和性の違いが PD-1 による抑制効果に与える影響を詳細に調べました。その結果、抗原受容体と抗原の親和性が低い場合ほど、T 細胞の活性化により誘導される遺伝子の発現が PD-1 によって強く抑制されることを発見しました。また、マウスを用いた解析により、PD-1 が働かない場合にはがん抗原に対する親和性が低い T細胞の活性化が相対的に強く促されることを明らかにしました。 現在、がん治療薬として PD-1 阻害抗体が多くの患者さんに使用されていますが、その効き目はがんの種類や個人によって大きく異なります。本研究成果は、PD-1 阻害抗体によるがん免疫療法の改良や新しい免疫制御療法の開発に役立つと期待されます。

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