IQB Annual Report 2021
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佐藤 祥子(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・特任助教)滝沢 由政(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・准教授)胡桃坂 仁志(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野・教授)17雑誌名:Nucleic Acids Research論文タイトル:論文タイトル:Cryo-EM structure of the nucleosome core particle containing Giardia lamblia histones著者:Shoko Sato*, Yoshimasa Takizawa*, Fumika Hoshikawa, Mariko Dacher, Hiroki Tanaka, Hiroaki Tachiwana, Tomoya Kujirai, Yukari Iikura, Cheng-Han Ho, Naruhiko Adachi, Indu Patwal, Andrew Flaus, and Hitoshi Kurumizaka*DOI 番号:10.1093/nar/gkab644発表のポイント:◆ 病原性寄生虫であるジアルジア(和名:ランブル鞭毛虫)のヌクレオソーム構造をクライオ電子顕微鏡解析により世界で初めて解明しました。◆ ジアルジアのヌクレオソームは“開いた”構造を形成すること、高等真核生物とは異なる特徴的な表面構造をもつことを明らかにしました。◆ ジアルジアは世界中で最も感染者数の多い病原性寄生虫の一つであり、ジアルジアのヌクレオソームの詳細な立体構造が解明されたことにより、医薬品開発の足がかりになることが期待されます。発表の概要: 東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の佐藤祥子特任助教、滝沢由政准教授、胡桃坂仁志教授らのグループは、病原性寄生虫であるジアルジアの DNA 折りたたみの基盤構造を解明し、他の生物種とは異なる特徴的な部分構造をもつことを明らかにしました。 真核生物のゲノム DNA は、様々なタンパク質と複合体を形成し、折りたたまれて核内に収納されています。遺伝子の発現制御や、遺伝情報の次世代への継承は、折りたたまれた DNA上で起こります。この DNA 折りたたみの基本単位は、ヌクレオソームと呼ばれる構造体で、円盤状のタンパク質複合体に DNA が巻きついた規則的な構造を形成しています。ヌクレオソームは、DNA の折りたたみ構造を決める、遺伝子制御の基盤となる構造体です。ジアルジアは、ヒトなどの小腸に寄生する寄生虫で、世界で最も感染者数の多い感染症の一つであるジアルジア症の原因となる病原体です。ジアルジアの DNA もまた、ヌクレオソームを基盤構造として折りたたまれています。しかし、ジアルジアのヌクレオソームの構造や性質は、今まで不明でした。本研究では、ジアルジアのヌクレオソームを試験管内で再構成し、クライオ電子顕微鏡解析と生化学的解析を組み合わせることにより、ヌクレオソームの詳細な三次元構造を世界で初めて解明しました。 本研究で、ジアルジアのヌクレオソームは、DNA の末端がヒストンから剥がれ、“開いた”構造を形成することが明らかになりました。また、ヌクレオソーム表面にあるタンパク質の結合領域が他の生物とは異なる形をしており、ヌクレオソームに結合する因子の種類などが、ヒトとジアルジアのヌクレオソームでは異なることが考えられました。 本研究で明らかになった構造情報は、ジアルジアに特異的に作用する薬剤を探索する基盤となり、医薬品開発につながることが期待されます。病原性寄生虫ジアルジアのゲノム DNA 折りたたみの基盤構造を解明Elucidation of the structural basis for DNA compaction in the human parasite Giardia lamblia

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