IQB Annual Report 2021
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15大規模生命情報解析研究分野シングルセル遺伝子発現データを利用した遺伝子ネットワークの構築手法「疎」なデータから遺伝子群に内包される正負の相関を推定するCodependency and mutual exclusivity for gene community detection from sparse single-cell transcriptome data仲嶋 なつ(東京大学定量生命科学研究所 大規模生命情報解析研究分野・特任研究員(研究当時))林 寛敦(東京大学定量生命科学研究所 分子病態情報学社会連携部門・特任助教)藤木 克則(東京大学定量生命科学研究所 ゲノム情報解析研究分野・助教)白髭 克彦(東京大学定量生命科学研究所 ゲノム情報解析研究分野・教授)秋山 徹(東京大学定量生命科学研究所 分子病態情報学社会連携部門・特任教授)中戸 隆一郎(東京大学定量生命科学研究所 大規模生命情報解析研究分野・講師)雑誌名:Nucleic Acids Research論文タイトル:Codependency and mutual exclusivity for gene community detection from sparse single-cell transcriptome data著者:Natsu Nakajima, Tomoatsu Hayashi, Katsunori Fujiki, Katsuhiko Shirahige, Tetsu Akiyama, Tatsuya Akutsu and Ryuichiro Nakato*DOI 番号:10.1093/nar/gkab601発表のポイント:◆ 「疎」でありデータのばらつきが多いシングルセル遺伝子発現データから、頑健に遺伝子ネットワーク推定や排他的発現パターンを示す遺伝子ペアを同定する新規手法を開発しました。◆ 構築した手法を膠芽腫幹細胞に対して適用し、従来法では見つけられなかった新規の腫瘍マーカー遺伝子候補を複数同定しました。◆ 本手法はどのような生体組織データに対しても利用可能であり、新規の重要なマーカー遺伝子の発見に活用されることが期待されます。発表の概要: シングルセル遺伝子発現量解析(scRNA-seq)は、生体組織や腫瘍組織に含まれる細胞不均一性を同定するための強力な手法です。一方でデータ感度は限られており、ばらつきが多い「疎」なデータであるため、従来の遺伝子間相関・ネットワーク推定手法をそのまま適用することが困難でした。東京大学定量生命科学研究所の仲嶋 なつ 特任研究員、中戸 隆一郎講師らの研究グループは、そのようなscRNA-seqデータに対して頑健に遺伝子共発現ネットワークを構築・比較する新規手法を開発しました。さらに、相互排他的な遺伝子の推定を行うための指標、Exclusively Expressed Index(EEI)を提案し、相互排他的な遺伝子ペア群を細胞クラスタリングのための特徴量として応用する手法を開発しました。 本手法を同研究所の林 寛敦 特任助教、秋山 徹 特任教授らの研究グループによって樹立された膠芽腫幹細胞データに適用し、血清刺激前後において共発現・排他発現パターンが変動する遺伝子群を網羅的に同定しました。これにより、従来法では見つけられなかった新規の膠芽腫幹細胞マーカー遺伝子候補を複数同定しました。本手法を活用することで、種々の組織細胞における新規マーカー遺伝子の同定や、細胞不均一性への理解の向上につながることが期待されます。

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