IQB Annual Report 2021
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12雑誌名:Genes & Genetic Systems論文タイトル:Establishment of an “in saccharo” experimental system著者:Tetsushi Iida and Takehiko KobayashiDOI 番号:10.1266/ggs.21-00004発表のポイント:◆ 酵母菌(出芽酵母)の細胞中でヒトの遺伝子などを解析する新しい実験のシステムを構築しました。◆ 多くの遺伝子を細胞に導入することができる巨大染色体ベクターを考案し、それを用いて酵母内でヒトの遺伝子を働かすことに成功しました。◆ 今後ヒトの細胞などで起こっている生理作用を酵母菌内で再現することで、酵母を用いて薬剤のスクリーニングなどが短時間で行えるようになると期待されます。発表の概要: 細胞の働きを知るためには、細胞内で起こっている反応を研究する必要があります。通常、細胞からタンパク質(酵素)を取り出し、試験管内でその働きを調べます。しかし、試験管内で全ての酵素がうまく働くとは限りません。また、たくさんの酵素が関わる反応を試験管内で再構築するのは非常に困難な場合もあります。この技術的な「壁」を解決するために、東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授と飯田哲史助教は、単細胞真核生物である出芽酵母を「生きた試験管」のように用いた新しい解析方法「インサッカロ(in saccharo)実験系」を考案しました。これにより、細胞からタンパク質を取り出すことなく、タンパク質の機能を研究することが可能となります。 このインサッカロ実験系を可能にするには、多くの遺伝子を酵母内で安定に発現させるための「ベクター」が必要です。ゲノム再生研究分野酵母菌内でのヒト遺伝子を解析する実験系の開発巨大染色体ベクターの構築Establishment of an yeast experimental system for human gene functions -Construction of an huge chromosome vector that can accommodate many external genes-飯田 哲史(東京大学定量生命科学研究所 ゲノム再生研究分野・助教)小林 武彦(東京大学定量生命科学研究所 ゲノム再生研究分野・教授)しかし通常のベクターは 1~数個の遺伝子しか保持することができません。そこで今回、酵母の染色体上のリボソーム RNA 遺伝子領域を利用した「染色体ベクター」を開発しました。リボソーム RNA 遺伝子は反復構造をとっており、特別な安定性維持機構により、理論的には 100 個以上のヒト遺伝子の導入が可能となります。本研究により、酵母菌内で、ヒトの細胞の反応系を構築及び解析することができます。さらには再構築したヒトの反応系を用いて薬剤のスクリーニングや遺伝解析を行うことができ、加えて実験にかかるコストや時間、実験動物の数を大幅に削減することも可能になると期待されます。

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