IQB Annual Report 2021
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鍾 沛原(東京大学大学院新領域創成科学研究科・博士課程)庄司 佳祐(東京大学定量生命科学研究所 RNA 機能研究分野・助教)泉 奈津子(東京大学定量生命科学研究所 RNA 機能研究分野・技術専門職員)泊 幸秀(東京大学定量生命科学研究所 RNA 機能研究分野・教授)11RNA機能研究分野piRNA 産生における反応場の「ソーシャルディスタンス」自己遺伝子と非自己遺伝子の識別には反応場の適切な区画化が重要Dynamic subcellular compartmentalization ensures fidelity of piRNA biogenesis in silkworms雑誌名:EMBO Reports論文タイトル:Dynamic subcellular compartmentalization ensures fidelity of piRNA biogenesis in silkworms著者:Pui Yuen Chung, Keisuke Shoji, Natsuko Izumi, Yukihide Tomari*(責任著者)DOI 番号:10.15252/embr.202051342発表のポイント:◆ カイコにおける新規の piRNA 反応場を同定し、piRNA 経路が複数の反応場に区画化されていること(反応場の「ソーシャルディスタンス」)を見出しました。◆ piRNA 経路の適切な区画化は、非自己であるトランスポゾンだけに対応する正確な piRNAの産生に重要であることを明らかにしました。◆ 謎が多く残されている細胞内構造体の制御メカニズムと役割に新たな知見を与えました。発表の概要: piRNA(PIWI-interacting RNA)は、人間を含めた動物の生殖細胞に存在するわずか30塩基程度の小さな RNAですが、次世代に伝わる生殖細胞のゲノムを「トランスポゾン(転移因子)」の脅威から守る役割を持ち、種の存続には不可欠なものです。近年では、ガン細胞や神経細胞などにおいても、piRNA が重要な役割を果たしていることが報告されています。piRNA をつくるために必要な因子の多くは、細胞質の中でも特に核のまわりに見られる nuage(ニュアージュ)と呼ばれる膜を持たない細胞内構造体に局在しているため、この構造体は piRNA が作られる場、すなわち「piRNA 反応場」であると考えられていました。しかし、この構造体の中で何が起きていて、piRNA 産生にどう必要であるかといった反応場形成の生物学的意義は不明なままでした。 今回、東京大学定量生命科学研究所の鍾 沛原大学院生、庄司 佳祐助教、泉 奈津子技術専門職員、泊 幸秀教授の研究チームは、カイコ生殖細胞における piRNA 反応場「piP-body」を新たに同定し、piRNA を作る因子が nuage と piP-body に分かれて局在していることを見いだしました。また、piP-body と nuage を行き来する piRNA 因子の動きを阻害することで、これらの piRNA 反応場間の行き来が、正確な piRNA の産生に必須であることを突き止めました。本研究成果は、nuage をはじめ、未だ謎が多く残されている細胞内構造体の生物学的意義を明らかにし、piRNA の品質管理機構の理解を大きく前進させるものです。

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