IQB Annual Report 2020
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  IQB Institute for Quantitative Biosciences |25──────── 細胞が増える時には、事前にDNAを正確にコピー(複製)し、複製されたDNAを娘細胞に分配します。DNAの遺伝情報を短時間でコピーするために、細胞はDNA上の多くの場所から複製を始めます。DNA複製過程で異常が起こると、誤った遺伝情報が娘細胞に受け渡され、がんや様々な病気の発症につながります。東京大学定量生命科学研究所ゲノム再生研究分野の小林武彦教授と佐々木真理子助教、後藤真由子大学院生は、細胞周期の進行、特にDNA複製の開始を司るClb�タンパク質をもたない出芽酵母の細胞では、リボソームRNA反復遺伝子の一部が削られたり増幅したりしてDNAが不安定になることを発見しました。Clb�タンパク質がないと、DNA複製開始の頻度が減少し、複製開始点同士の間隔が長くなり、複製装置が長く移動する必要が生じます。そのため複製装置の停止などのトラブルに遭遇しやすくなることが明らかになりました。これらの発見から、細胞がどのようなメカニズムで膨大な遺伝情報を正確に複製し、がん化などを回避しているのかを明らかにすることができました。ゲノム再生研究分野遺伝情報を守るメカニズムを発見―DNAを素早くコピーすることが遺伝情報の安定な維持に大切―後藤  真由子(東京大学大学院理学系研究科 博士課程�年)佐々木 真理子(ゲノム再生研究分野 助教)小林  武彦(ゲノム再生研究分野 教授)Molecular and Cellular Biology論文タイトル:The S-phase cyclin Clb� promotes rDNA stability by maintaining replication initiation efficiency in rDNA著者:Mayuko Goto, Mariko Sasaki and Takehiko KobayashiDOI番号:��.����/����.��.��.������掲載: https://www.iqb.u-tokyo.ac.jp/press_release/������_�/発表のポイント:□生物の設計図であるDNAのコピー(複製)開始頻度に関わる因子が、遺伝情報の安定維持に重要であることを発見しました。□DNA複製は適切な間隔で効率よく開始されなければならないことの重要性が、証明されました。□今後DNAの複製開始頻度の調整機構が解明されれば、がんの発生メカニズムやがん化を防ぐ方法の開発に繋がることが期待されます。

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