【論文紹介】
メチルベスタチンとリガンド連結低分子によるタンパク質ノックダウン法:ユビキチン化による細胞内レチノイン酸結合タンパク質分解誘導剤の創出
J. Am Chem. Soc. 2010, 132, 5820-5826.

ヒトゲノム解析終了後、遺伝子やタンパク質の機能解明がますます重要になってきている。遺伝子やそれから翻訳されるタンパク質の未知の機能を解明する為に、遺伝子量を減らす方法がこれまで活用されてきた。しかし、既に出来上がったタンパク質量を減少させる実用的な方法は無かった。

ユビキチンリガーゼ(E3)は、不要な基質タンパク質と結合して「ラベル」であるユビキチンを付加することにより、不要なタンパク質を分解へ導く(図上)。 我々は、基質タンパク質の代わりに、標的のタンパク質とE3からなる非生理的な複合体を生理的な条件下で人工的に形成できれば、標的タンパク質に特異的に 「ラベル」を付与し、標的タンパク質を分解できると考えた(図下)。そして、E3と標的タンパク質の複合体を形成させる為に、E3の低分子リガンド(メチ ルベスタチン)と標的タンパク質のリガンドを連結させた低分子を設計・化学合成した。そして、この低分子が、生細胞中で標的タンパク質を期待通り特異的に 減少させることを確認した。なお標的タンパク質としては、細胞内レチノイン酸結合タンパク質(CRABP)を選択した。CRABPの機能は十分に解明されておらず、また抗がん剤の標的として注目されているにもかかわらずCRABP阻害剤は存在しない。今回、合成した低分子が、CRABP減少を介してがん細胞の遊走を阻害することも見出した。

今回創製したCBABPを分解する低分子は、がんの分子標的薬として期待される。また今後、CRABP以外の標的タンパク質も特異的に分解できれば、翻訳後タンパク質を減少させる一般的手法(タンパク質ノックダウン法)を確立できると期待している。