【論文紹介】

Design, synthesis, and biological evaluation of novel transrepression-selective liver X receptor (LXR) ligands

J. Med. Chem. 2012, 55, 7360-7377.

核内受容体の代表的な機能として、その応答配列(NRE)の下 流に存在する標的遺伝子の転写活性化(transactivation)が知られている。近年、幾つかの核内受容体が転写因子以外の作用を併せ持つことが 報告された。そのひとつに、他のタンパク質と複合体を形成してNREの下流以外の転写を抑制するtransrepression作用が知られている。この transrepression作用は、機序の解明が不十分である。その一因として、多くの核内受容体リガンドがtransactivation作用と transrepression作用を併せ持ち、選択的な化合物が少ないことが考えられる。

肝臓X受容体(LXR)は核内受容体の1種であり、LXR応答 配列(LXRE)の下流に存在する標的遺伝子(abca1等)の転写をリガンド依存的に活性化(transactivation)する(図左上)。最近、 プロモーター領域にLXREを持たない炎症性サイトカインなどの遺伝子(il-6等)がLXRリガンド依存的に転写抑制 (transrepression)されることが報告された(図左下)。我々は、これまで殆ど報告が無い免疫調節作用選択的なLXRリガンドの創製を目指 した。過去に我々が創出したLXRリガンドをリード化合物として、transactivation作用を減弱させるべく、この作用に重要な水素結合を形成 できない分子を設計・合成したところ、転写活性化能が弱い化合物1を得ることができた(図右)。LXR結合試験と、LXRノックアウトマウスにより、化合物1のIL-6産生抑制作用がLXR依存的であることを確認した。


















【論文紹介】

Discovery of LXXLL peptide mimetics as inhibitors of the interaction of vitamin D receptor with coactivators

Bioorg. Med. Chem. 2013, 21, 993-1005.

リガンド依存的な転写因子である核内受容体は、ヒトでは48種 が知られており様々な生理作用に関与していることから、医薬の標的分子として多大な注目を集めてきた。それ故、種々の核内受容体に対する低分子アゴニス ト・アンタゴニストが数多く創製され、幾つかは医薬として活用されている。核内受容体の1種であるビタミンD受容体(VDR)は、活性型ビタミンD3を主要なアゴニストとし、そのアンタゴニストが骨パジェット病治療薬として期待されている。しかし、非セコステロイド型のVDRアンタゴニストはこれまで報告がなく、創製が難しい可能性がある。

そこで我々は、アンタゴニスト以外のアプローチでVDRの転写 活性化を抑制するアプローチが必要と考えた。核内受容体の転写活性化には、アゴニストの結合に加えて核内受容体とコアクチベータータンパク質の結合が必須 である。そして、核内受容体がコアクチベーター上のLXXLL配列(L:ロイシン、X:任意のアミノ酸)を認識することが知られており、近年LXXLL配列を含むペプチドにより核内受容体の転写活性化が抑制できることが示された。しかしペプチドそのものは膜透過性や生体内での安定性に課題が存在する。我々はLXXLL配列を模倣したペプチド等価体を設計・合成することにより、非ペプチド型のVDR阻害物質の創製に成功した。更に、この化合物の構造活性相関を取得し、活性に重要なファーマコフォアを考察し、阻害活性を増強させた化合物も得ることができた。本化合物は、VDRとコアクチベーターの結合を阻害する初めての低分子と言える。
















LXXLL配列を含むコアクチベーター由来ペプチド(水色)とVDR(灰色)の複合体X線結晶構造(図右上)を参考に、VDRとコアクチベーターの結合阻害低分子を設計・創製した(図下)。