親水性基導入に頼らない低分子の水溶性向上策
親水性基導入に頼らない低分子の水溶性向上策
J. Med. Chem. 2011, 54, 1539-1554.
The Practice of Medicinal Chemistry (4th Edition) pp747-765 (2015).
医薬品の探索において、医薬品原体の水溶性は、薬効・安全性・体内動態などに多大な影響を及ぼすとても重要な要素です。化合物の水溶性を向上させる為には、「親水性基」を導入する方法が一般的に用いられています。しかし、親水性基導入が薬物−標的タンパクの相互作用を弱めてしまう場合、経口吸収性向上を目指して疎水性(分配係数:LogP)と水溶性を同時に増加させたい場合など、親水性基導入は万能な水溶性向上策とは言えません。我々は、分子の非平面化・非対称化による低分子の水溶性向上策を提案しました。 この水溶性向上策は分子の疎水性とは独立しているので、たとえ疎水性が増大しても水溶性を向上させることもできます。また、親水性基導入と本向上策の合わせ技も可能です。
2015/11/01
【論文紹介】
分子の非平面化による水溶性向上策:芳香族炭化水素受容体作動活性を有する水溶性に優れたβ−ナフトフラボン誘導体の創製
Bioorg. Med. Chem. 2010, 18, 1194.
ダイオキシンは環境ホルモンとして有名ですが、その生体への影響はよく判っていません。特に、ダイオキシンが結合する芳香族炭化水素受容体(AhR) というタンパク質の機能は十分に解明されていません。このタンパク質に結合・活性化する低分子リガンドとして、ダイオキシンの他にβ−ナフトフラボンなど が知られています。β−ナフトフラボンは、ダイオキシンよりも強力にAhRを活性化します。これらの低分子リガンドは、平面性と高い疎水性が共通しており水溶性が低いことが特徴です。水溶性が低い低分子は、各種生物学実験に用いにくく度々問題となります。そこで我々は、水溶性の優れたβ−ナフトフラボン誘 導体を創製できれば、AhRの機能解明を助けることができると考えました。
さて、分子の水溶性理論式は、疎水性(分配係数:LogP)に加えて結晶の融点も考慮しています。融点は結晶のパッキングエネルギーと関連があると言われています。そこで、融点を下げるべく分子を非平面または非対 称に誘導すれば、融点低下により水溶性も向上すると考えました。そこで、β−ナフトフラボンの2位に置換基を導入した化合物を設計して、二面角増大=平面 性低下→融点低下→水溶性向上を目指しました。その結果、予想通り水溶性が15倍向上した化合物が得られました。更に、β−ナフトフラボンより7倍強くAhRを活性化し、また水溶性が3倍向上した化合物を創出できました。今回創製した化合物によって、ダイオキシンやAhRの機能が解明されることを期待しています。