研究紹介
研究紹介
Research Objects
【論文紹介】
Improvement in aqueous solubility in small molecule drug discovery programs by disruption of molecular planarity and symmetry.
J. Med. Chem. 2011, 54, 1539-1554.
医薬候補低分子の水溶性は、薬効・安全性・体内動態などに多大な影響を及ぼす為、全ての低分子創薬において共通且つ非常に重要な要素である。リード化合物の水溶性改善が、大きな課題になる事例も多い。低分子の水溶性と脂溶性は相反する性質であり、親水性置換基と脂溶性置換基の割合によって決定され、あたかも綱引きをしているように捉えられている(図左)。それ故、水溶性を向上させる為に、親水性置換基を導入する方法が一般的に用いられているが、万能な水溶性向上策ではなかった。そこで我々は、親水性置換基導入に頼らない低分子の水溶性向上策の提唱を目指した。固体の溶解性は、溶質の溶媒への親和性と、結晶の柔らかさの両方に影響を受けるとの報告がある。そこで我々は、分子の非平面化・非対称化により結晶が柔らかくなり、水溶性を向上できると考えた。結晶の柔らかさと脂溶性・水溶性のバランスは独立していることから、この方法を用いれば水と油に対する溶解度を同時に向上することも可能と考えられた(図右)。そして、平面性を崩壊させる分子設計、もしくは対称性を崩壊させる分子設計により、3種のリード化合物の水溶性を向上させることができた。リード化合物に比べて脂溶性が増加しているにもかかわらず、水溶性が350倍向上した例もあった。更に、各種物性値を用いて水溶性向上の機序を解析した。その結果、先の水溶性向上例は、脂溶性低下によるものではなく、柔らかい結晶形によることが示唆された。本論文は、低分子の水溶性を向上させる新しい方策を総説として提唱したものである。創薬現場において、この水溶性向上策が活用されることが期待される。このように、薬効面以外でも新しい創薬戦略の確立を目指しています。
【論文紹介】
分子の非平面化による水溶性向上策:芳香族炭化水素受容体作動活性を有する水溶性に優れたβ−ナフトフラボン誘導体の創製
Bioorg. Med. Chem. 2010, 18, 1194.
ダイオキシンは環境ホルモンとして有名ですが、その生体への影響はよく判っていません。特に、ダイオキシンが結合する芳香族炭化水素受容体(AhR)というタンパク質の機能は十分に解明されていません。このタンパク質に結合・活性化する低分子リガンドとして、ダイオキシンの他にβ−ナフトフラボンなどが知られています。β−ナフトフラボンは、ダイオキシンよりも強力にAhRを活性化します。これらの低分子リガンドは、平面性と高い疎水性が共通しており水溶性が低いことが特徴です。水溶性が低い低分子は、各種生物学実験に用いにくく度々問題となります。そこで我々は、水溶性の優れたβ−ナフトフラボン誘導体を創製できれば、AhRの機能解明を助けることができると考えました。
さて、分子の水溶性理論式は、疎水性(分配係数:log P)に加えて結晶の融点も考慮しています。融点は結晶のパッキングエネルギーと関連があると言われています。そこで、融点を下げるべく分子を非平面または非対称に誘導すれば、融点低下により水溶性も向上すると考えました。そこで、β−ナフトフラボンの2位に置換基を導入した化合物を設計して、二面角増大=平面性低下→融点低下→水溶性向上を目指しました。その結果、予想通り水溶性が15倍向上した化合物が得られました。更に、β−ナフトフラボンより7倍強くAhRを活性化し、また水溶性が3倍向上した化合物を創出できました。今回創製した化合物によって、ダイオキシンやAhRの機能が解明されることを期待しています。
親水性置換基導入に頼らない低分子の水溶性向上策
13/12/09