研究紹介
研究紹介
Research projects
生物応答調節剤として、細胞の生育環境ないし疾病の増悪因子を制御する医薬サリドマイドに着目した研究を展開している。
サリドマイドは催奇形性ゆえに市場撤退した催眠剤として有名であるが、近年、エイズや各種のがんに対する著効が注目され、米国ではハンセン病治療薬及び多発性骨髄腫治験薬として認可を受け、本邦においても承認申請中である。
本薬の効果は従来、炎症性サイトカインTNF-αの生産抑制作用に基づくものとして議論されてきた。しかし我々はこれまでに、サリドマイドがマルチターゲットな薬物として捉えられるべきものであることを示してきた。
サリドマイドの明確な薬理作用から想定される各々の標的に対して、個別に構造展開を行うことにより、作用を特化した特異的かつ強力な活性化合物を医薬リードとして創製してきた。具体的には、TNF-α生産調節剤・抗アンドロゲン剤・シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤・一酸化窒素合成酵素(NOS)阻害剤・アミノペプチダーゼ阻害剤・α-グルコシダーゼ阻害剤・血管内皮細胞増殖因子阻害剤などを見出しており、「サリドマイドをマルチ創薬テンプレートとして活用」する手法がほぼ確立できたと言えよう。
一方、サリドマイドは化学的にもまた代謝的にも不安定な化合物である。本研究室では、サリドマイドの示す多能的薬効の少なくとも一部は分解産物や代謝産物に起因する可能性を想定し、サリドマイド代謝物を網羅的に合成した。
この代謝物ライブラリーの各種活性評価を行うことにより、サリドマイドの加水分解や水酸化の代謝様式とその薬理活性との包括的構造活性相関を明らかにした。これはサリドマイドの有効性を補完するものであり、また作用分子機構の一部を説明するものである。
これらの各種医薬リードを選別・複合することにより、催奇形性問題を排除した新サリドマイド療法・生物応答調節療法の確立に貢献することを目指している。本手法は、薬物標的の主体を個々の遺伝子産物単独ではなく、一連の遺伝子(産物)の相互作用に置くという立場であり、ゲノム創薬に相補する「ドラマタイプ(演出型)創薬」として発信している。
サリドマイドを基盤とした生物応答調節剤の創製研究
13/12/20