氷包埋法 ; Vitreous Ice Enbedding method
透過電子顕微鏡の急速凍結法の一種で、
ウィルスや単離した蛋白などの懸濁試料を急速凍結し、
そのまま固定や染色等をせず観察するための方法。
この後、クライオホルダーに装着し、低温(〜-170℃)に保ったまま
電子顕微鏡観察を行う。
二次元結晶等平面性が欲しい試料の場合は、雲母片に蒸着して作製したカーボン膜を
そうでない場合は、膜穴を用いる。
1)支持膜作製
膜穴(マイクログリッド)の作製(保存可能)
2)カーボン蒸着
(数日は、保存可能。長期保存すると、脆くなってしまい、凍結事の物理的衝撃に耐性がなくなるので注意。)
3)支持膜の親水化(凍結を行う直前で処理)
Material
図1
イオンスパッター装置
アミルアミン存在下でグロー放電を行う。
(通常の、空気を用いた親水化だと、親水性が高くなりすぎるため、
アミルアミンのガスを用い、少し疎水性を持たせている。)
条件:
真空度:1 Torr
電流:10mA
放電時間:数十秒。
その他:アミルアミン 20μl
手順:
メッシュをカーボン蒸着側を上にして置き、
別の容器に(図では、茶色い瓶)に、アミルアミンを入れて真空排気後、グロー放電を行う。
注)アミルアミンは、発癌性物質ため、ドラフトチャンバーのすぐ脇か、換気の出来る場所で行いたい。
図2 グロー放電中(薄青に光っている)。
道具のリスト
図3 道具類一式
温度湿度環境の準備
まず、凍結時の環境を整える。
4℃で安定になるように、チャンバーで(ここでは、薬用ショーケース)を予冷却しておく。
また、凍結時は、乾燥防止のため、加湿器を入れておく。(写真では、超音波加湿器)
チャンバーが十分に冷えたら、冷媒用・保存用のデュワーにLN2を充填する。
(この最初のデュワーへのLN2充填は、チャンバー外で行って、チャンバーに設置。)
図4 LN2入りのデュワーを設置したところ
(写真中央の台座上のデュワーが、冷媒用。下段、右側が、グリッドケース保存用デュワー。
いずれも、霜除けの蓋が被さっている。シャーレの蓋を利用。)
なお、このとき、保存用のデュワーには、作業用の皿をのせ、
保存用のメッシュケースを入れ、最初に入れる穴を開放して、
蓋を軽く止めておく。
図5 保存用デュワーを上から見たところ(霜除け用の蓋は外してある)
4本足が付いているものが、作業用の皿。
水色のものが、保存用グリッドケース。
冷媒の準備(エタンの液化)
チャンバーに、冷媒用のLN2デュワーを設置し、LN2を充填。
(沸騰がおさまったら)
エタンガスを充填する。
(ボンベからパスツールピペットの付いたタイゴンチューブにて導入)
図6 エタンの液化
(キャピラリを装填している手前のチューブが冷媒用アルミ製キャップで
デュワー内側、左横に取り付けてあるのは、移送用の取手付きアルミ製キャップ)
LN2のデュワーにセットしてある、アルミ製の試験管キャップに
LN2が入っていないことを確認し(入っていたら棄てる)、
アルミ製試験管キャップの底にピペットの先を押し付けながらガスを導入。
エタンを液化させながら、充填していく。
図7 エタン液化のイメージ@
図8 エタン液化のイメージA
この時、ガス圧が高すぎると、シリンダーにあまり溜まらずにLN2液面にあふれたり、
飛散したりするので加減すること。
液化エタンが溜まりだしたら、上がってくる液面に合わせるようにして
ガラスピペットをゆっくりと引き上げ、
シリンダー満杯になってきた辺りで、ガス圧を徐々に落として、最終的には、バルブを閉じる。
この時、焦ってバルブを閉めると、内圧の影響で
液化エタンが充填チューブに逆流するのでタイミングに注意。
注)
なお、液体エタンは、 凝固点・沸点とも低いため、凍結効果が高いが、
逆に、皮膚などに付着すると、確実に凍傷になる。作業は、注意して行いたい。
手袋・防護目がね等の着用を薦める。(布製手袋の場合、逆効果になることもあるので注意)
試料とグリッドの準備をする直前に、グリッド移送用のカップにLN2を充填。
このとき、霜が入らないように留意したい。
試料とグリッドの準備
親水化処理済みのグリッドに、試料をのせる。
アンチキャピラリピンセットでグリッドの端をつかみ、試料液を載せる。
再現性のためにも、懸濁液は、いつも同じ量にきめておくと良い。(ここでは、4μl)
これをチャンバー内のインジェクターにセット。
エタンのためとピンセットの位置を補正。
この時、エタンが
液化してすぐは、温度が高いため、
スカルペル(又は、ディスポーザブルのアートナイフなど)を液体窒素で冷却して、
エタン溜めに差込、冷却。(必要なら、これを繰り返す)
このとき、上面に液が溜まっているようなら棄てること。(突沸して危険なため)
また、まれにエタン液面上に酸素が液化してたまることがある。
液化酸素は、非常に反応性が高いため危険。
長時間作業するような場合は、酸素がたまる前にエタンを廃棄したい。
(液体酸素:うっすらと青色を呈する)
凝固して間も無い場合>
室温のスカルペルを用いて、溶解。
凝固して時間がたっている場合>
いったん、室温のエタンガスを再導入、溶解する。
固まったエタンの上面に、ピペットの先を押し付け(ピペットを割らないように)、
ガスを徐々に吹き付けてる。
それに伴い、固体エタンが溶解していくので、それにしたがって、ピペットを
アルミキャップの底に持っていく。
液は、十分量あるので、溶解したら、前述の通り、
ピペットを引き上げながら、バルブをじわっと閉める。
この場合、液がまだ温かいので、スカルペルでスラッシュ化する(前述)。
図9 スカルペルでスラッシュ化しているところ
●グリッド上の試料液の調整と凍結
エタンの最終調整が出来たら、いざ凍結!
手順:
あらかじめ、足は、リリースペダルにかけておく。
ピンセットをインジェクターにセット。(ここまでは、ゆっくりで大丈夫)
(ここからは、手早く!!)
1/3に細長くカットしたろ紙を両手で持ち、メッシュに平行に押し当て、
ろ紙をメッシュから離し、リリース(凍結)を行う。
このとき、ろ紙を離してリリースするまでの時間は、最小限になるように(ほぼ同時)。
図10 インジェクターに試料メッシュ付きのピンセットをセットしているところ
ろ紙で試料液を吸い取る目安だが、
メッシュとろ紙は、平行に。(膜厚を一定にするため)
ろ紙にメッシュが一様に透けて見えるように。(でも、液を残しすぎると厚すぎ)
心持ち押えつける。(すぐに離すと、氷の厚さにムラが生じ易い)
図11 ろ紙にグリッドが透けているところ
ろ紙を離すと同時に、落下開始(ie.ペダルを踏む!)。
押さえつけつつリリースする感覚が良い。
(メッシュにろ紙を付けている間は、ミニウェットチャンバー状態なので
乾燥に関しては、あまり心配いらない。)
なお、大きい結晶の場合、支持膜の裏からろ紙をあてて余分を吸い取る。
(試料を載せた側と反対側から膜穴の穴をふるいとして利用する。)
ただし、この方法だと蒸発がおこりがちで、イオン環境が大きく変化しやすいという点は
留意しておくこと。>参照2)
図12 リリース終了状態。
落下と同時に、凍結完了。エタンが凍結してしまう前に、試料を保存する。
手早く、移送用の取手付きアルミ製試験管キャップに新しいLN2を充填。
霜防止のためのTips :
まず、デュワー内に少しLN2をたしてから、
凍結後のグリッドが直接触れるLN2容器(移送用の取手付きアルミ製試験管キャップや保存用デュワー)に充填する。
魔法瓶の口に霜が付いていると、これが後でコンタミの原因になってしまうのだ。
さらに、保存用のLN2デュワーの霜除け蓋(写真では白いテープが、張り付いている)を外し
手早く、新しい窒素を充填。
LN2充填用ポットは、LN2を装填した後、口にキムワイプを詰めて栓をしておくと
霜の混入を避けることが出来る。
図14 グリッドの移送
インジェクターのネジを外し
右手で、ピンセットを持って移送用の取手付きアルミ製試験管キャップ中のLN2に素早く移す。
さらに、保存用デュワーの作業用皿に上に乗っているメッシュケースにグリッドを直接移動する。
(すぐに移せるように口が一つ開いているはず)
図15 凍結済みグリッドをメッシュケースへ
図16 ケースの蓋をまわして閉める
装填が終わったら、回転蓋を回して閉じ、ネジを軽く締めておく。
さらに、このデュワーの霜除け防止蓋も閉じておく。
図17 凍結済みグリッドがメッシュケースに収まっているところ
この一連の作業を繰り返す。
メッシュケースが、4枚でいっぱいになったら、作業用皿の下に沈める。
一つの試料につき、メッシュケース(4枚)2セットくらい作っておくとよいだろう。
●試料の保存
コニカルチューブ
蓋に釣り糸を通し、チューブにおもりを入れておく。
当然のことだが、保存するまで〜保存中のLN2に、霜を持ち込まないようにしたい。
●試料を運搬したい場合
市販のステンレス製の魔法瓶を利用すると良い。
LN2は、翌日くらいまで十分クリーンに保っている。
参考文献:
1)豊島 近,
「Ice Embedding法」 :実験医学 Vol.8, No.5(増刊) , 49(433)-57(441),
1990
2) Chikashi TOYOSHIMA, On the
use of holey grids in electron crystallography :
Ultramicroscopy 30, 439-444, 1989
end