現在はP型イオンポンプによる能動輸送機構の解明、特に筋小胞体のカルシウムATPaseの結晶解析とその結果に基づいた分子動力学的研究に重点をおいている。カルシウムATPaseは、筋収縮に伴って筋細胞中に放出されたカルシウムイオンを筋小胞体に汲み上げ、筋肉を弛緩させるポンプであり、イオン輸送ATPaseを代表する分子量11万の大きな蛋白質である。初期の低温電子顕微鏡を用いた研究(Nature
362,469;Nature 392, 835)では、膜内イオン通路を形成しているαヘリックスを見るのがやっとであったが、難しいことで有名な膜蛋白質の三次元結晶化にも成功し、X線結晶解析によって原子レベルの構造を明らかにできた(Nature 405,647;
表紙にもなった)。さらに反応サイクル全体をカバーする4つの基本状態すべての構造を決定し(Nature 418, 605; 430, 529;
432,361),動的性質の研究や変異の理解を進めている。この結果、ATPや燐酸化は何をしているかといった本質的疑問に答えられるようになった。能動輸送は現代生物学の大きなテーマの一つだが、その機構を原子構造に基づいて理解できるであろう。
1.イオン能動輸送機構の構造的解明