最近の研究成果

精子形成に重要なヒストンによるDNAの新たな折りたたみを解明!

胡桃坂 仁志(東京大学定量生命科学研究所 クロマチン構造機能研究分野 教授)
平野 里奈(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 博士課程2年)
Communications Biology

発表概要

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の平野里奈 大学院生、東京大学定量生命科学研究所クロマチン構造機能研究分野の胡桃坂仁志 教授らの研究チームは、金沢大学ナノ生命科学研究所の柴田幹大 准教授、京都大学複合原子力科学研究所の杉山正明 教授らとの共同研究で、精子形成に重要なヒストンタンパク質H2A.Bが、DNA折りたたみの基盤構造であるヌクレオソームをダイナミックに構造変換する様子を世界で初めて解明しました。

 

精子の形成過程では、DNAの折りたたみによって形成される染色体構造が大きく変化していきます。染色体の基本単位であるヌクレオソームは、ヒストンタンパク質がDNAに巻き付くように結合した円盤状の構造体です。精子形成時には、ヒストンバリアントであるH2A.Bが発現して、染色体におけるDNA折りたたみ構造の変換に重要な役割を果たすと考えられていましたが、H2A.Bの機能については未だ不明な点が多く残されていました。

H2A.Bヌクレオソームの性質の動態を明らかにするためには、解析に必要な大量かつ高純度のヌクレオソームを調製する必要があります。そこで、本研究チームは、精製したヒストンとDNAをもとに、H2A.Bを含むヌクレオソームを試験管内で再構成し、その動態を生化学的解析、高速原子間力顕微鏡解析、そしてX線小角散乱解析によって解明しました。具体的には、H2A.Bを含むヌクレオソームが、ヒストンの複合体の一部が解離したような“開いた”構造を取ること、そしてH2A.Bが主要型のヒストンH2Aと自発的に置き換わるという特異的な性質を持つことを明らかにしました。これらのことから、H2A.Bを含むヌクレオソームが“開いた”構造を取ることで主要型ヒストンが結合しやすくなり、H2A.Bが押し出されてヒストンが置き換わると考えられました。

本研究で得られた知見は精子形成メカニズム解明に必要不可欠な基盤を提供するものであり、精子形成障害のメカニズムの解明・治療へつながることが期待されます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)「エピジェネティクス研究と創薬のための再構成クロマチンの生産と性状解析」(代表:胡桃坂仁志、JP20am0101076)、日本学術振興会(JSPS)の新学術領域研究「遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル」(代表:胡桃坂仁志、JP18H05534)、および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「胡桃坂クロマチンアトラスプロジェクト」(研究総括:胡桃坂仁志、JPMJER1901)の支援を受けて実施されました。

 

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雑誌名等

雑誌名:Communications Biology
論文タイトル:Histone variant H2A.B-H2B dimers are spontaneously exchanged with canonical H2A-H2B in the nucleosome

著者:Rina Hirano, Yasuhiro Arimura, Tomoya Kujirai, Mikihiro Shibata, Aya Okuda, Ken Morishima, Rintaro Inoue, Masaaki Sugiyama, and Hitoshi Kurumizaka

問い合わせ先

胡桃坂 仁志(クルミザカ ヒトシ)

東京大学 定量生命科学研究所 教授